全6966文字
PR
写真:山根一眞
写真:山根一眞
[画像のクリックで拡大表示]

 新型コロナウイルス感染症が広がり始め、日本中が緊張状態に陥っていた2020年5月1日。うれしい知らせがあった。福島第1原子力発電所〔1F(イチエフ)〕で進んでいた1・2号機排気筒(高さ120m)の最頂部から高さ59mまでの解体撤去工事が終わり、午後1時7分、排気筒の上部に「蓋」をしたのだ。

 59mが残ったが、この高さであれば地上から重機を使い解体が可能。それより上、120mまでの撤去はきわめて難しい作業だった。

放射性物質を放出した高線量の“煙突”

 1・2号機排気筒は、東日本大震災直後に1号機の格納容器の蒸気圧を下げる「ベント」で使われた(図1*1。この排気筒から拡散した放射性物質が広範囲の放射能汚染を起こしただけに、1Fの原子力災害の象徴とされる施設だ。

図1 撤去前の1・2号機排気筒
図1 撤去前の1・2号機排気筒
19年2月15日の様子。(出所:東京電力ホールディングスングス)
[画像のクリックで拡大表示]
*1 構造・形状は「煙突」に近いが、煙を出すのではなく排気の設備であるため、「排気筒」を正式名称としている。

 排気筒は円筒状の「筒身」が自立しているのではなく、筒身をトラス構造の「鉄塔」が囲み支える構造である。その鉄塔部分には東日本大震災時の揺れが原因と思われる破断箇所が見つかっており、地震による揺れや台風などで変形するリスクもあった。

 この排気筒の解体撤去はまず取り組まねばならない重要課題だったが、排気筒下部や排気筒内に放射性物質が付着して放射線量が高かったため、人が何日も携わる工事はできず、遠隔無人工事が必須だった(図2)。

図2 排気筒解体計画の概要
図2 排気筒解体計画の概要
750tクレーンでロボット(筒身解体装置・鉄塔解体装置)を120mの高さまでつり上げ、遠隔で操作する。(出所:東京電力ホールディングス廃炉情報誌「はいろみち」第20号)
[画像のクリックで拡大表示]

 排気筒の高さ120mは高層ビルの30階に相当する。そんな巨大施設を、独自のロボットを短期間に開発し解体撤去すると提案して受注したのがエイブル(福島県・大熊町)だ(「挑戦者」参照)。同社は先に、線量が極めて高い排気筒下部のドレンサンプピット(排気筒に入った雨水をためる設備)の工事を、自社開発のロボットによって達成(別掲記事参照)し、自信を持っていた。

 そして実際に、質量40~50tに及ぶ巨大な解体工事用ロボット2種を、受注からわずか8カ月後の18年8月に作り上げた。考えられない迅速さだった。このロボットを、国内では最大級という750tクラスの大型のクローラークレーンで地上からの高さ120mにつるし上げて、切断操作を実行するのだ。