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 日本人には高品質を求める気質があります。例えば、日本の自動車業界では世の中にある最高品質の製品を「ベンチマーク」とし、それを超える製品の開発を目指す文化が定着しています。結果的に素晴らしい機能や耐久性を持つ製品が日本から生まれました。ただ一方で、消費者が必要とする品質を超えた高価な製品も数多くあります。それでは安価な製品が多い海外市場で太刀打ちできないのです。

 約10年前、日本で造った自動車部品は高価で、コストでは中国の現地メーカーに全く勝てませんでした。そこで、前職のデンソー在籍時、私は海外で勝負できる製品を造る必要があると思い、低コストプロジェクト活動を始めました。

「念のため」の修正重なり、設計が硬直化

竹村孝宏氏
竹村孝宏氏
イントランスHRMソリューションズ 代表取締役社長(元デンソー)(写真:日経ものづくり)

 まずは品質を現地の要求水準に合わせることを目指しました。現行の製品をベースに、必要以上に高い品質を「落とす」というアプローチです。ところが、品質をどう落とすべきか答えが見つかりません。その最大の原因が、設計経緯のブラックボックス化です。

 設計を進める中では何度も設計変更が入りますが、実は「念のため」の修正もあります。例えば、ある製品Aで不具合が出たとします。製品Aで対策するのは当然ですが、同じような構造を持つ製品Bは不具合がなくても直している。こうした「本当に必要か分からない設計変更」を実際の製品では何十回、何百回も繰り返しています。

 そのため、いざ品質を適切な水準に下げる方向に設計変更しようとしても、機能や性能にどんな悪影響が出るか、もはや分からないのです。既存の製品設計を出発点に品質を落とすことは断念しました。

 次に世の中で流通している最低限の品質の製品を基準に、その品質を上げていくアプローチに変えました。日本の半値くらいで売っている中国製品を調べると、安く造れる理由は部材にかかる費用を抑えたからだと分かりました。デンソーは製品のばらつきがかなり小さな範囲に収まるように、部材の品質のばらつきも抑えています。その厳しい要求を満たそうとすると部材の価格は1.5~2倍くらいに跳ね上がってしまいます。

安い部材に合わせた設計で品質・価格を適正化

 そこで、調達する部品や材料を安価なものから選択し、それを使い切ることを前提とした設計や造り方にしようとしたのです。例えば、寸法のばらつきが大きいけれども非常に安い部品があったとします。不良品が少なからず出ますから購入量は増えますし、抜き取り検査ではなく、全数検査をするため、検査費用も必要となります。それでも検査方法を工夫する他、製造工程を改良することで、検査費用と製造費用、部品価格の合計が安くなるならば、製品では必要な品質を満たしつつ価格は下げられます。この発想の大転換により、コストを4割減らしたのです。

 日本では一般に、自分の工程で完璧なものを造らないといけないという考え方が浸透しているため、安い材料を採用しにくいのでしょう。日本の品質を支えてきた良い面もある一方で、行き過ぎると全体最適が見えなくなります。デンソーでも日本の仕入先に対しては、不良品「ゼロ」を要求します。でも例えば、100個の納入部品の中で3個だけ基準を満たさない部品を提供する取引先なら、その3つをはじく力が自分たちにあれば、取引先の選択肢は広がります。全ての工程を完璧にするのではなくて、製品を造るプロセス全体で見たときに問題がなければ良いのです。

竹村孝宏 氏(たけむら・たかひろ)
イントランスHRMソリューションズ 代表取締役社長(元デンソー)
奈良県生まれ。中小企業診断士、キャリアコンサルタント。大阪市立大学商学部卒業、オーストラリア・ボンド大学大学院経営学修士課程修了(MBA)。1982年日本電装(現デンソー)に入社。中国での事業経験を経て、全社プロジェクトリーダーとして活躍。「新興国向低コストプロジェクト活動」での成果が評価されて「社長賞」を受賞。現在は人材育成事業に取り組み、豊富なノウハウを体系化した能力開発トレーニングや営業力強化指導に当たっている。