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原因は追究するが責任は追及しない

 品質経営懇話会で取り組みを話していただいた「良い会社」は、やはり経営トップが変化を敏感に感じられるセンスを持っています。加えて、トップの考えが伝わる仕組みが会社の中にできています。そうした仕組みの中で動く人たちは、トップに何を伝えなくてはいけないかをよく理解し、役目を果たしています。情報収集と分析、そして決断が見事に企業の中で機能してるのです。

 それを端的に表す言葉が、「悪いことを先に言う」という「バッドニュースファースト」です。しかし、バッドニュースファーストは相当な覚悟がないと実現できません。バッドニュースファーストの実現には、報告する側も腕を磨かなくてはなりません。いかに早く正確に伝えるかです。原因や背景を100%分かるまで調べていては遅すぎます。どこで決断するかという組織的なコンセンサスがきちんとないと、バッドニュースファーストという言葉は絵空事になってしまうのです。

 バッドニュースファーストを部下にさせるため、私は何か悪い報告を受けても「なぜだ」とは聞かないようにしてきました。「ああ、そうか」と言うだけです。

 トヨタは慌て者の誤りに対して許容範囲が広い会社です。異常時にラインを止める「アンドン」システムを見れば分かります。作業者が異常を感じてラインを止めると、ベテランが来て、実際に異常があれば処置をしてくれるわけです。もし異常がなくても、「こういうのもあるんだよ」と指導は入りますが、「なんで止めたんだ」とは絶対に言いません。指導はするけど叱らない。なぜ止める必要がなかったかを腹落ちするまで教え込む。異常というものを正しく判断できるまで現地現物で訓練するのです。

 トヨタの良いところは、決して犯人捜しはしないところです。原因は追究します。例えば、深刻な設計ミスが発生したとしましょう。設計ミスといっても、それがある特殊な組み合わせのときにだけ起きる不具合で、途中の評価でも見過ごされたものだとします。誰が責任を取るかと話しても仕方がないのです。責任問題で労力を費やすのは建設的ではありません。起きてしまった問題に時間を割くより、どうしたらそれを未然に防げるのか、同種のものはほかにないのかという、見直しに労力を割いたほうがいいわけです。責任追及をせず、原因を追究して、再発防止をするのです。

 それは社内に限った話ではありません。協力メーカーも同じです。保証体系が守られている限り、その範囲で何か問題が起きても、社内と同じように責任は追及しません。合意してやっているわけですから、合意内容のどこかに見逃しがなかったのかを考えるしかないわけです。

個別事例から顧客価値創造の手段を一般化

 先ほど、バッドニュースファーストを実現するために必要な心構えについて説明しました。品質経営懇話会の中で紹介する「良い会社」の経営行動でもバッドニュースファーストをはじめとしたさまざまな取り組みの事例が出てくるのですが、なかなか自社へ適用するのは難しい。言い方は少し悪いかもしれませんが「カリスマ経営者だからできたんだろう」となってしまう。品質経営懇話会で紹介されるのは個別事例で、言ってみれば特殊解の塊みたいなものです。

写真:日経ものづくり
写真:日経ものづくり

 ただし、こうした取り組みを一般解化する必要は感じています。そこで、「品質経営研究会」という取り組みを20年11月に開始しました。成功した個別事例の本質を理解した上で、一般解として人に教えられるレベルにまで仕組化するのが目的です。かなり難しいとは思っていますが、これを実現しないと結局「俺の背中を見て育て」のような話になってしまいます。

 実際、独特なパーソナリティーで引っ張っていた人でも、そのパーソナリティーを構成している要素、例えば前述したような「人を責めない」「過去のことにはあまりこだわらないで未来志向をする」といった共通部分があるはずです。

 研究会では3つのテーマ(チーム)に分け、2カ月に1回ぐらいの頻度で議論を進めています。例えば、TQMという日本産業の発展を支えた理論では、顧客価値創造の必要性を強調してはいますが、具体的手段の提示が少ないのではと感じています。TQMには上手に使えば新たな発想を生み出す源となる手法がありますから、それを新たなビジネスモデル(顧客価値)創出に生かす方法を話し合っています。

 懇話会や研究会などの取り組みを通じて、広く世の中の変化を察知する新しい経営を模索しつつ、第3次産業の事例なども紹介し、品質経営研究会で一般解化していく。そうやって日本の品質経営の力を高めていくことを目指しています。

佐々木眞一 氏(ささき・しんいち)
日本科学技術連盟 理事長 トヨタ自動車 元副社長
1970年北海道大学工学部機械工学科卒業、トヨタ自動車工業(現トヨタ自動車)入社。品質管理畑に長らく従事。2001年取締役、2003年常務役員、2005年専務取締役、2009年取締役副社長、2013年相談役・技監、2016年顧問・技監、2018年技監。2019年嘱託。2014年から日本科学技術連盟理事長。著書に『トヨタの自工程完結』がある。