「産業向けIoT基盤(IoTプラットフォーム)はあまり流行っていないのではないか」─。スマート工場の動向を取材しているうちに、ある制御機器メーカーの関係者から聞こえてきた話である。「大手IT企業のクラウドサービスが選択肢としてある中で、専用のIoT基盤は費用がかさむ。それに見合う効果があるのかは疑問」(同関係者)というのだ。
「インダストリー4.0」で注目
IoT(Internet of Things)基盤とはその名称の通り、IoTの導入に必要なさまざまな機能があらかじめ用意されているサービスだ。顧客は全くのゼロからIoTシステムを開発しなくて済む。データの収集や分析の仕組みが手軽に使えるのがメリットだ。
製造業などを想定した産業向けIoT基盤は、今から3~5年前の2016~18年ごろに登場した(表)。IoT基盤は処理能力をクラウド側に置く製品が主流だが、産業向けは高速性を重視してエッジ側に置く場合もある。
提供開始時期 | 企業・団体名 | サービス・製品名 |
2016年2月 | 米General Electric | Predix |
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2016年5月 | 日立製作所 | Lumada |
2017年10月 | ドイツSiemens | MindSphere |
2017年10月 | ファナック | FIELD system |
2018年5月 | Edgecrossコンソーシアム | Edgecross基本ソフトウエア |
インダストリー4.0が理想とするスマート工場は、大量のデータを収集して分析する仕組みがあって成り立つ。そんなスマート工場の「プラットフォーマー」になれると見て、多くの企業が参入した。
どの製品もアピールポイントはおおむね次の2つ。まずは「つながりやすさ」。生産設備によるデータ形式の差異を吸収して、データ収集を容易にする。次に「オープンプラットフォーム」。顧客や第三者ベンダーがアプリを開発して公開しやすい環境を整えることで、利用が広がると期待された。
前述の制御機器メーカー関係者は、「理想のサービスであると共感しつつ、同時に脅威だった」と当時を振り返る。データを収集される側の機器メーカーからすれば、製品の付加価値をIoT基盤に奪われる可能性があった。しかし、「現在はそうした脅威は感じなくなっている」(同関係者)。
実際、産業向けIoT基盤は工場で使われているのだろうか。日経ものづくりは21年10月、スマート工場に関するアンケートを実施(図1)。導入動向を聞いた。その結果、最も多かった回答は「使っていない」の31.2%。「IoT基盤相当のシステムを自社開発」は20.5%で、「特定企業・団体のIoT基盤」(10.7%)を上回った。
もちろん、この結果だけで「普及が進んでいない」とは言えない。気になるのは、「分からない」との回答が27.0%で2番目に多いこと。回答者は主に製造業の技術者だが、産業向けIoT基盤という分野そのものが、あまり知られていないのかもしれない。