インダストリー4.0は、2011年4月に開催された世界最大級の産業技術の展示会ハノーバーメッセで初めて提唱された。それからちょうど10年の節目に当たる「HANNOVER MESSE 2021: Digital Edition」(2021年4月12~16日)で、「インダストリー4.0の10年、国際的成功を収めたドイツ発のコンセプトとその未来」と題するオンラインセッションがあった*1。インダストリー4.0の名付け親といわれる2人、ヴォルフガング・ウォールスター氏とヘニング・カガーマン氏が登壇し、10年を振り返った。
その内容などから、ドイツが今日、インダストリー4.0をどのように捉えているかを見ていく。
ドイツの現状認識
影響力拡大に強い自信
11年4月、ハノーバーメッセのオープニングイベントのコーナーの1つ、 「ヘルメス賞」の審査員を務めていたウォールスター氏がインダストリー4.0について紹介した1)。これが公の場でインダストリー4.0が語られた最初とされる。
10年が経過して、ドイツではインダストリー4.0はかなりの成功を収めていると自信を深めている(別掲記事参照)。21年のハノーバーメッセのオンラインセッションでは、最初に司会が「インダストリー4.0はマーケティングの誇大プログラムなのか、それとも未来への具体的なビジョンなのかという議論があったが、実際にはこの10年の間に、製造業でのネットワーク利用が驚くべきスピードで進んだ」と、掛け声に留まらず実質的に大きな進展があったとの認識を示した。
それを受けて、ウォールスター氏は「技術面、ビジネス面をはじめとして構成要素がそろっていたのがその後の成功を導いたし、時期も適切だった」と成功の要因を挙げた。カガーマン氏は、成功要因として真っ先に「労働界の支持」を指摘。「当初は労働組合関係者の半数からは歓迎されたが、半数からは反対された。そこで、ドイツ最大の労働組合であるIGメタル(金属産業労組)のトップをはじめ、労働界の多くの人と話した」と、相互理解に努めたという。「その結果、労働者を建設的に巻き込めたのは本当に良かった」と振り返る。
国際的な認知が進む
現実の取り組みとして、ウォールスター氏は「産業界において課題解決に役立つという共通理解が強まりつつある」と指摘する。「21年のハノーバーメッセの出展内容は、単に大量のデータを集めるというより、注目すべきデータを分析して利用するシステムが増えた。故障などの予知ができるだけでなく、現象を理解して新しい結論を導き出せる。得られた知見は人間の意思決定プロセスや設備のプロセスの改善に生かせる」と述べた。
国際的にもインダストリー4.0は認知されたと見る。「『幼稚園(Kindergarten)』や『アウトバーン(Autobahn)』と同様に、ドイツ発祥で世界の共通語になった。米国発やアジア発の用語が使われてきたハイテクの世界では初めての例」1、 2)としている。
カガーマン氏も「10年間、我々はインダストリー4.0の波を生み出し続けてきた」と言う。「提唱の2年後には、デジタル経済におけるビジネスモデルを提言する立場になった。その2年後には、ドイツ国内にとどまらず、日本で『Society 5.0』を宣言した首相に自律型システムに関して提言した。我々は外国に招かれた際、常に少しずつでも新しい考え方を伝えてきた」と胸を張る。