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 三洋化成工業は熱可塑性プラスチックであるABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)樹脂の耐薬品性を向上させる添加剤「ファンクティブ」を開発した(図1)。ABS樹脂は剛性と耐衝撃性のバランスが良く、自動車の内外装部材などとして多く使用されている。ただし、耐薬品性が比較的低く、改善が求められていた。新製品により自動車の金属部材を軽量なABS樹脂で置き換えやすくなり、二酸化炭素(CO2)排出量削減を後押しすると期待される。2022年から本格販売に乗り出す。

図1 三洋化成工業が開発したABS樹脂向け耐薬品性向上剤「ファンクティブ」
図1 三洋化成工業が開発したABS樹脂向け耐薬品性向上剤「ファンクティブ」
(出所:日経ものづくり)
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 ABS樹脂はアクリロニトリルとスチレンの共重合体であるAS(アクリロニトリル/スチレン)樹脂にポリブタジエンが分散した構造だ(図2)。アクリロニトリルの耐熱性と機械的強度、ブタジエンの耐衝撃性、スチレンの光沢性や加工性を併せ持ち、比較的低コストなため、家電や自動車部品などで幅広く使われている。

図2 ABS樹脂の電子顕微鏡写真
図2 ABS樹脂の電子顕微鏡写真
AS樹脂にポリブタジエンが分散している。(出所:三洋化成工業)
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 しかし、ABS樹脂は薬品に対する耐性が比較的低いという難点がある。具体的には、塗料が含む有機溶剤や消毒用のアルコールなどで樹脂が軟化・脆化(ぜいか)し、外観を損なったり、ひび割れが生じたりする。ABS樹脂が、構成する高分子が規則正しく並ばない「非結晶性」なのが一因だ。薬品が入り込みづらい結晶部分がないため、ポリプロピレンなどの結晶性プラスチックと比べると耐薬品性に劣る。

 ABS樹脂に薬品が触れると、AS樹脂が薬品を吸収して膨らみ、割れが生じやすくなる。また、薬品によりポリブタジエンとAS樹脂の間の密着力が低下し、クラックの起点となる場合もある。