「在庫」の意味が問い直されている。新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う工場閉鎖や輸送の停滞などをきっかけに、国内外を問わずサプライチェーンが混乱。半導体をはじめさまざまな部材が不足し、価格が高騰している。従来にない広範囲かつ収束が見えない非常事態に各企業は、これまで少ないほど良いとされてきた「在庫」の新ルールを模索する。これからのものづくりでは、どのように部材を調達し、製品を生産していくべきなのか。在庫管理に悩む各企業の現状と取り組みをレポートする。(高市清治、岩野 恵、木崎健太郎、中山 力)

在庫を再考せよ
目次
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部材不足が「在庫」の常識変える、繰り返される不測の事態に即応
Part1 総論
在庫の在り方を見直す動きが広がってきた。「在庫は悪」として最小化するのではなく、「ある程度の在庫は持つ必要がある」という考え方に変わり始めているのだ。背景にあるのは、前例のない部材不足をはじめとするサプライチェーンの混乱だ。
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JITと在庫削減が“悪”になる時代
坂口孝則 氏(未来調達研究所 取締役)
筆者はサプライチェーンのコンサルティング会社に属している。コロナ禍以前と以後では、問い合わせの内容が異なっている。以前は、「働き方改革」「人工知能(AI)/RPA(Robotic Process Automation)の活用」といったテーマが多かった。
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代替品を活用しつつ先行発注、製品の造りだめも検討
Part2 ケーススタディー[Case1●富士通ゼネラル/エアコン]
「2020年度第3四半期から製品を供給しきれなくなり始めた。この時に供給できなかった製品が21年度にずれ込んだ。21年度の第1四半期はそのずれ込んだ分を製造していたが、それも下半期にずれ込んだ」。
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予期せぬ「在庫なし」に困惑、加工メーカーの確保も難航
Part2 ケーススタディー[Case2●極東精機製作所/3Dプリンター]
「アルミ材が『在庫なし』とは予想さえしていなかった」。こう話すのは、金属加工を手掛ける極東精機製作所(東京・大田)代表取締役社長の鈴木亮介氏だ。同社はグーテンベルク(東京・大田)が発売予定の3Dプリンター(アディティブ製造装置)「G-ZERO」の開発に参画している。
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相次ぐ部材不足で混乱続く、納期遅れに4つの要因
Part2 ケーススタディー[Case3●ノーリツ/給湯器]
部材不足の影響は幅広い製品に広がっている。寒い冬には欠かせない給湯器もその1つだ。2021年秋ごろから一般消費者の間で品不足が話題となり、同年12月には政府が東京五輪・パラリンピックの選手村に設置されていた給湯器約1400台を貸し出す方針を発表する事態にまで発展した。
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多様な商品の即納が顧客を魅了、デジタル技術で在庫をさばく
Part2 ケーススタディー[Case4●トラスコ中山/機械工具]
機械工具卸売業のトラスコ中山の在庫戦略は他社と一線を画す。多くの企業が在庫数を最低限に抑えようと工夫を重ねてきたのに対し、同社は在庫を持つことを強みと考える。
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9割超が「生産計画に影響を受けた」、対策は先行発注、複数購買、在庫増
Part3 数字で見る現場[調査テーマ:部品・材料不足と在庫の見直し]
近年の部材不足によって、多くのメーカーで納期遅れや生産調整、工場操業の一時停止を余儀なくされている実態がアンケート調査で明らかになった。「部材不足によって生産計画に影響が出ている」と9割超が回答。