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 在庫の在り方を見直す動きが広がってきた。「在庫は悪」として最小化するのではなく、「ある程度の在庫は持つ必要がある」という考え方に変わり始めているのだ(Part1 総論別掲参照)。背景にあるのは、前例のない部材不足をはじめとするサプライチェーンの混乱だ。

減産や開発・設計の遅れも

 現在、サプライチェーンの混乱は製造業に大きな影響を与えている(図1)。

図1 製造業が直面している課題
図1 製造業が直面している課題
部材不足や部材価格の高騰、物流の停滞という3重苦によって、製造業の生産計画は大きな影響を受けている。生産数量の減少は売り上げの減少を招き、収益も悪化。やむなく販売価格を見直す場合もある。(出所:日経ものづくり)
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 例えば、経済産業省と国土交通省は2021年12月10日、連名で「家庭用給湯器の安定供給」を日本ガス石油機器工業会と日本冷凍空調工業会に要請した。家庭用給湯器の供給不足の影響で、新築住宅の工期が延長したり、故障した給湯器の部品交換が遅れたりしているのだ。供給不足の主な原因は、コネクターなどの部品や素材の調達難だ*1

*1 2022年1月31日に公表された「経済産業省生産動態統計」の速報によると、21年12月の「ガス湯沸器」と「ガス温水給湯暖房機・風呂がま」の出荷数の合計(速報値)は、過去10年間で最も低い約33万台だった。

 部材不足の影響によって、メーカーは生産計画の変更を余儀なくされている。例えばトヨタ自動車は、22年2月9日、21年度通期(21年4月~22年3月)の世界生産台数が850万台まで落ち込む見通しだと発表した*2。21年11月に公表した計画では900万台だったから、50万台の減少だ。同社は22年1月24日から同26日、3日連続で国内工場の生産調整計画を修正。22年1月に稼働停止する工場(生産ライン)を増やした。この減産も、国内の仕入先で新型コロナが拡大し、部品調達が滞ったことに起因する。

 工作機械業界も然り。従来、工作機械の生産額は受注額に対して8割強の水準で推移していたが、21年と22年は半分から3分の2程度しか造れない状況だ。22年1月11日、ファクトリーオートメーション(FA)業界誌を発行するニュースダイジェスト社(名古屋市)が主催した22年の工作機械業界の展望を語る講演会で、ニュースダイジェスト社の八角秀編集長が指摘した。

 日経ものづくりが22年1月に実施した「部品・材料不足と在庫の見直し」に関するアンケート調査でも、「部材不足が生産計画に影響を受けている」との回答が93.0%に上るという結果が出た(Part3 数字で見る現場*3。「納期遅れの発生」は7割超、「減産」は5割超が経験していると回答。その影響の深刻さを物語る。

*3 ニュース配信サービス「日経ものづくりNEWS」の読者を対象に、アンケート用URLを告知した上で回答を依頼。2022年2月4日~8日に実施し、270の回答を得た。

 開発・設計への影響を指摘する声も聞かれる。ある大手メーカーの調達担当者は、「不足する部品を代替品に変更するため既存製品の設計変更に追われており、新製品の開発・設計に手が回らない」と話す*4

*4 アンケート調査の回答者からも「マイコンの調達が難しく、試作手配で半年から1年かかるケースが出てきた。実機を使った評価ができず、開発期間の長期化は避けられない」(その他の製造業、開発・生産)との指摘があった。

 各社の業績にも影響が出ている。三菱重工業は22年2月7日、21年4~12月期の連結決算で材料費や輸送費の高騰、半導体不足による減益影響が240億円に上ると明かした*5。富士通も22年1月27日の決算説明会で、半導体不足に起因する部材の供給遅延の影響で21年4月~12月の9カ月累計の減収額が397億円に上ったと公表した*6