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 機械工具卸売業のトラスコ中山の在庫戦略は他社と一線を画す。多くの企業が在庫数を最低限に抑えようと工夫を重ねてきたのに対し、同社は在庫を持つことを強みと考える(「挑戦者」参照)。在庫の品ぞろえは約50万アイテムにも及び、競合他社が常備しないニッチな商品や季節性の商品も広く取りそろえる。

 在庫は同社の成長の源泉だ(図1)。在庫があるからこそ可能な、多様な商品を即納するサービスは、機械工具商や溶接材料商だけでなく、一般消費者とつながりが深いネット通販会社やホームセンターなど幅広い顧客を惹きつける。特にネット通販会社向けのビジネスは近年大きく伸びている。2021年12月期はネット通販などeビジネス関連の連結売上高が前年比で16%増えた。金額にすると446億円で売上高全体の約2割を占める。

図1 トラスコ中山の倉庫内部
図1 トラスコ中山の倉庫内部
自走型搬送ロボット「Butler(バトラー)」などが、大量の在庫からの迅速な出荷を支えている。(出所:トラスコ中山)
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在庫を生かした新サービスを提案

 豊富な在庫に基づく新サービスも始めた。その1つが21年に本格的に展開し始めた「MROストッカー」だ(図2)。「置き薬」ならぬ、「置き工具」のサービスである。トラスコ中山が卸売りする工具などの商品をユーザーの生産現場に置いている。ユーザーにとっては、必要なタイミングですぐに商品を入手できるのがメリットとなる。ユーザーは商品の使用時に、専用のスマートフォンアプリから商品の情報を登録し、その商品代だけを負担する。既に約400カ所に設置した。

図2 MROストッカー
図2 MROストッカー
置き薬ならぬ置き工具。トラスコ中山が商品を顧客の生産現場に置き、使う分だけを購入してもらうことで、ユーザーの利便性を高めている。(出所:トラスコ中山)
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 他にも、「ユーザー様直送」というサービスを始めた。これは、その名前の通りトラスコ中山から、最終ユーザーへ直接商品を送るサービスだ。ユーザーが注文するのは、トラスコ中山からではなく、ネット通販会社などの販売業者である。従来、トラスコ中山はそうした販売業者に商品を送り、そこで販売業者が商品を別の箱に詰め替えたうえでユーザーに届けていた。

 ユーザー様直送では、商品を発送する過程で販売業者を挟まないため、商品がユーザーの手元に届くまでの日数を約半分に減らせる。梱包資材、配送回数なども約半分になるため環境負荷低減にもつながる。21年は約280万箱をユーザーに発送した。

 このサービスを実現するには、単に在庫を用意しておくだけでなく、在庫を効率よく出荷する仕組みを持つ必要がある。例えば「ビニールテープであれば、普通の問屋は10巻のセットで売るところ、当社は1巻ずつ売れる仕組みを持っている」(トラスコ中山代表取締役社長の中山哲也氏)と少量出荷に対応する。さらに梱包作業を自動化する「I-Pack(アイパック)」というシステムも導入した。1ライン当たり1時間で720個もの梱包出荷ができるという(図3)。

図3 自動梱包システム「I-Pack(アイパック)」
図3 自動梱包システム「I-Pack(アイパック)」
1ライン当たり、1時間で720個もの梱包出荷が可能。「ユーザー様直送」サービスで活躍している。(出所:トラスコ中山)
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