全3917文字
PR

日野にとって特別だった「2017年」

 おまけに、営業利益率が下落したこの時期は、日野自動車にとって大切なタイミングだった。看板車種のモデルチェンジを控えていたからだ。しかも、2車種を同時にモデルチェンジするという野心的な時期と重なっている。実際、17年に同社は中型トラック「日野レンジャー」を16年ぶりに、大型トラック「日野プロフィア」を14年ぶりに刷新し、それぞれ6代目の新型車、3代目の新型車として発売した(図5)。4年ごとに新型車に切り替えることが多い乗用車とは異なり、トラックはモデルチェンジまでの期間が長く、同じモデルを10年以上も販売し続けるのは珍しくない。

図5 2車種の新型車を発表した2017年4月5日のリリース
図5 2車種の新型車を発表した2017年4月5日のリリース
16年ぶりの新型「日野レンジャー」(写真左)と14年ぶりの新型「日野プロフィア」(同右)を同年に発売した。日野自動車が不正を行った2016年は開発設計現場に大きな負担がかかっていたと推測できる。(日野自動車のプレスリリースを基に日経クロステックが作成)
[画像のクリックで拡大表示]

 逆に言えば、モデルチェンジでの失敗は決して許されないということだ。自動車メーカーが新型車を開発する際には、通常、あらゆる機能や性能で既存の競合車種を上回ることを求められる。日野自動車の開発設計現場は、恐らくは業績の低下から開発費や人員といった経営リソースが抑えられる中で、競合をしのぐ開発を進めながら、なおかつ「平成28年排出ガス規制」(ポスト・ポスト新長期規制)に対応しなければならないという厳しい条件まで課せられた。CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)が提唱されたのも16年のことで、日野自動車も電動化などの開発に本腰を入れ始めていた。そのための人員がエンジンの開発設計現場から引き抜かれた可能性もある。

 さらに言えば、17年は久々に日野自動車の生え抜きの社長が誕生した年だった。トヨタ自動車の子会社となった01年以降、日野自動車の社長の椅子は、トヨタ自動車出身者の指定席となっていた。トヨタ自動車の副社長から転じた蛇川忠暉氏から始まり、4代の社長がトヨタ自動車出身者で占められてきたのだ。それが16年ぶりに、日野自動車出身の下義生氏が社長に就任することになったのである。

 つまり、16年時点の日野自動車の開発設計現場については、久々の生え抜き社長を迎えようとする中で、2車種同時のモデルチェンジを成功させて、ライバルと比べて低水準に甘んじている業績を回復させることが求められていた、という姿が見えてくる。過大なプレッシャーがかかっていたのは想像に難くない。

トヨタ主導の厳しいスキーム

 今後、日野自動車が厳しい対応を迫られるのは必至だ。トヨタ自動車から送り込まれた人材が指揮を執り、日野自動車社内を徹底的に調査して真因(問題を引き起こした本当の原因)を見いだして、再発防止策をきっちりと出すように指導するだろう。これが、関係者に共通する見方である。ここではスピードと厳しさが求められる。世間が納得する水準の罰則を早く科すことがポイントだと関係者はみる。

 「不正に関与した役員は全て退任させ、トヨタ自動車から役員を投入する。幹部社員の人事も刷新する一方で、責任者に再生に関する実行計画を作成させ、例えば半年後など、早期に生まれ変わると宣言する。これをできる限り素早く実施しなければ、顧客の信頼は取り戻せない」(トヨタ自動車のOB)。

 ある関係者は日野自動車の「風通しの悪さ」を指摘する。「日野自動車の体質が心配だ。上司に物を言えず、言われたことにそのまま従う社員が多いのではないかと感じていた」と。

 「技術者はかわいそうだ」(関係者)という声もある。技術者には自ら不正を働く動機はないからだ。物理的に不可能なことを命じられても、できないものはできない。ここで、この関係者は「本来は部長が、無理難題を突き付けた役員に反論するなど適切な対応をすべきだったが、その役割を怠ったのではないか」とみる。

 日野自動車は、数値目標達成のプレッシャーが過大だったことや、開発のリードタイムが短すぎたことが不正の原因と説明する。それならば、幹部社員や役員は開発設計現場の率直な意見に耳を傾け、モデルチェンジの期間を少し延ばしたり、2車種のモデルチェンジの時期をずらしたりすればよかったのではないか。例えば、「足元の数年は“意志ある踊り場”と捉えて営業利益率は3~4%程度でしのぎ、5年先、10年先に業績の向上を目指す長期的な視点での開発設計に取り組む」(トヨタ自動車OB)といった対処方法も考えられたはずだ。

 いずれにせよ、不正という選択はこれ以上ない悪手だったことは間違いない。

関連Web記事

トヨタも怒らせる日野自動車の不正 いすゞの好業績に焦りか
日経クロステック ▶ https://bit.ly/3vdKV3B