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 「トヨタ自動車と比べて10年は遅れているという印象だ」─。排出ガス・燃費不正が発覚した日野自動車のエンジン開発について、トヨタ自動車の関係者(以下、関係者)はこう評価する。日野自動車は特別調査委員会を立ち上げて真因(問題を引き起こした本当の原因)の解明に乗り出した。だが、 「開発プロセスにまでメスを入れて刷新しなければ、日野自動車は不正の再発を防げないだろう」というのが、関係者の見立てだ。

 日野自動車は、「平成28年(2016年)排出ガス規制」(ポスト・ポスト新長期規制)の対象となる小型から大型までのエンジンで不正に手を染めた。このうち、中型エンジンの「A05C(HC-SCR)」は排出ガス不正、小型エンジンの「N04C(尿素SCR)」および大型エンジンの「A09C」「E13C」は燃費不正である。だが、これらのいずれもが「トヨタ自動車では起こり得ない」と関係者は言う。その根拠は、トヨタ自動車では「エンジンの開発プロセスにおいて不正ができない仕組みを構築している」(同関係者)点にある。

「ちょうどよい劣化」を見極めて触媒を交換か

 中型エンジンで日野自動車が行った不正は、エンジンの認証試験の1つである排出ガス性能の「劣化耐久試験」だ。この試験の途中に、同社は排出ガスの後処理装置である「第2マフラー」を不正に交換した(図1)。この第2マフラーとは、実質的に窒素酸化物(NOX)浄化用触媒(HC-SCR、以下触媒)のことである(図2*1

図1 劣化耐久試験中に不正交換した第2マフラー
図1 劣化耐久試験中に不正交換した第2マフラー
実質的にNOX用触媒のこと。中型トラック「日野レンジャー」に搭載した。(出所:日野自動車)
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図2 エンジンと排出ガスの後処理装置
図2 エンジンと排出ガスの後処理装置
エンジンからの排出ガスが流れる末端の部分にあるHC-SCR触媒でNOXを浄化する。(日野自動車の資料を基に日経クロステックが作成)
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*1  エンジンの排出ガスに含まれるNOXを二酸化窒素(NO2)と水(H2O)に変えて浄化(無害化)する触媒。未燃焼の炭化水素(HC)や燃料から分解生成したHCを還元剤として使う。

 なぜ、日野自動車は試験の途中で触媒を交換したのか。規定では45万km走行して触媒を劣化させた状態でも、NOXの排出量を規制値以下に収めなければならない*2。だが、試験したところ、それをクリアできなかった。そこで改めて試験を行い、今度は途中で別の触媒(新しいもの、もしくは劣化の浅いもの)と入れ替えたことが分かっている。

*2 通常は、実走行による試験では時間がかかりすぎるため、加速試験を利用する。すなわち、人為的に高温処理するなどして、45万km走行した場合と同等のストレスをかけて劣化させた触媒を造る。その触媒を使って試験した結果から規制への適合性を評価する。

 ただし、規定となる「45万km走行時」までに、途中で入れ替えた触媒の劣化があまり進まないと不自然なNOX排出量(NOXの排出量が少なすぎる結果)となり、国土交通省に届け出た際に試験の信ぴょう性を疑われる可能性がある。そのため、日野自動車は「最終的にちょうどよい劣化具合」になるように、触媒を交換する走行距離を見極めたと考えるのが妥当だ。

 なぜ、日野自動車ではこうした不正が起こり、トヨタ自動車では起こり得ないのか。その違いは、開発プロセスにおける「途中評価」の有無にある。