不正に「もしも」はない。だが、もしも開発設計の失敗に気づいた時点で設計方針を思い切って変えていたら、日野自動車はエンジンの排出ガス・燃費不正とは無縁でいられたのではないか(図1)。
結論を先に述べると、性能(設計目標値)を満たさない予測が立てば直ちに設計方針を改め、ハードウエアおよびソフトウエアの両面の設計変更をいとわないこと。これが、再発を防止するために日野自動車に求められる条件である。
同社の親会社であるトヨタ自動車は、Part3で述べた通り、エンジンの開発プロセスに「途中評価」を設けている。排出ガス性能の「劣化耐久試験」でいえば、この途中評価の段階で最終目標である触媒の劣化耐久性能、例えば、24万km(約15万マイル)走行相当分の劣化が進んだ状態における触媒の性能を同社は予測。このままでは最終目標値(規制値)をクリアできないと分かれば、直ちに触媒の設計方針を変更する*1。
これとは対照的に、日野自動車は「試験の過程で触媒が劣化しすぎて、このままでは規制値に適合しないと認識していた」にもかかわらず、途中で触媒の設計方針を変更することはなかった。当然、規制値を満たせないため、試験の途中で触媒(第2マフラー)を不正に交換したというわけだ。
すなわち、開発設計の途中で設計方針を許容するか否かが、不正を犯した日野自動車と不正とは無縁のトヨタ自動車との「分岐点」だったといえるだろう。
では、トヨタ自動車はどのように設計方針の変更を判断するのか。