「多品種少量生産に対応できる自由度の高い生産ラインにしたい」「ベテランから若手への技能承継対策を打ちたい」「材料の質感などを確認できる、精度の高い遠隔監視を実現したい」─。
急激な社会・市場の変化に合わせて、生産現場にこのような変革を求める声は多い。実現に向けて改革を進めている工場も少なくない。こうした工場改革に有効なのが、工場敷地内など限られた範囲に民間企業などが独自に5G(第5世代移動通信システム)ネットワークを構築できる「ローカル5G」だ(図1)。
なぜ通信システムが工場を変えるのか。進んだ工場では、ロボットやAGV(自動搬送車)はもちろん、NC工作機械やマシニングセンターなど、工場を動かすさまざまな機械・設備が通信ネットワークにつながっているからだ。工場内の血管とも神経とも言える通信ネットワークを、ローカル5Gによって無線化できれば、それが“潤滑剤”となって工場が今以上にスムーズに動くと期待されている。
ローカル5Gの通信ネットワークは、無線LAN(Wi-Fi)よりも大容量のデータを高速で伝送できるうえに、遅延が小さく、何よりはるかに安定している(図2)。イーサネットのような有線ネットワークに近い、確実で高速な安定した通信を無線化できるのだ。機械の性能を引き出すのに潤滑油が重要な役割を果たすように、工場の性能は通信の質で大きく変わると言っていいだろう。規模の大小を問わず、機械・設備を通信ネットワークに接続している工場であれば、ローカル5Gは無縁ではない。
しかし、「自由度の高い生産ライン」「技能承継対策」「精度の高い遠隔監視」といったアプリケーションとどのように関係するのか。本稿では、こうした工場改革でこそ、ローカル5Gが効果を発揮し得ることを解説する。