全6566文字
PR

 「多品種少量生産に対応できる自由度の高い生産ラインにしたい」「ベテランから若手への技能承継対策を打ちたい」「材料の質感などを確認できる、精度の高い遠隔監視を実現したい」─。

 急激な社会・市場の変化に合わせて、生産現場にこのような変革を求める声は多い。実現に向けて改革を進めている工場も少なくない。こうした工場改革に有効なのが、工場敷地内など限られた範囲に民間企業などが独自に5G(第5世代移動通信システム)ネットワークを構築できる「ローカル5G」だ(図1)。

図1 ローカル5Gの利用イメージ
図1 ローカル5Gの利用イメージ
土地や建物の所有者が国から基地局と特定無線局の無線局免許を取得し、5G(第5世代移動通信システム)による独自の通信ネットワークを、所有する土地や建物内で構築できる。(出所:総務省)
[画像のクリックで拡大表示]

 なぜ通信システムが工場を変えるのか。進んだ工場では、ロボットやAGV(自動搬送車)はもちろん、NC工作機械やマシニングセンターなど、工場を動かすさまざまな機械・設備が通信ネットワークにつながっているからだ。工場内の血管とも神経とも言える通信ネットワークを、ローカル5Gによって無線化できれば、それが“潤滑剤”となって工場が今以上にスムーズに動くと期待されている。

 ローカル5Gの通信ネットワークは、無線LAN(Wi-Fi)よりも大容量のデータを高速で伝送できるうえに、遅延が小さく、何よりはるかに安定している(図2)。イーサネットのような有線ネットワークに近い、確実で高速な安定した通信を無線化できるのだ。機械の性能を引き出すのに潤滑油が重要な役割を果たすように、工場の性能は通信の質で大きく変わると言っていいだろう。規模の大小を問わず、機械・設備を通信ネットワークに接続している工場であれば、ローカル5Gは無縁ではない。

図2 5Gと従来の通信方式との違い
図2 5Gと従来の通信方式との違い
5Gの通信速度は仕様上、Wi-Fi 6(最大9.6Gbps)やWi-Fi 5(最大6.9Gbps)より速く、安定している。4G/LTEは安定性で5Gと同等だが、通信速度が最大110Mbpsと遅い。有線は安定性とセキュリティーの点で5Gと同等、もしくは上回るがレイアウトの自由度が低い。(出所:日経ものづくり)
[画像のクリックで拡大表示]

 しかし、「自由度の高い生産ライン」「技能承継対策」「精度の高い遠隔監視」といったアプリケーションとどのように関係するのか。本稿では、こうした工場改革でこそ、ローカル5Gが効果を発揮し得ることを解説する。