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 「今後はバイオプラスチックを積極的に採用していく」(トヨタ自動車で材料技術を担う幹部社員)─。自動車メーカーが材料の大変革に臨んでいる。カーボンニュートラル(温暖化ガスの排出量実質ゼロ)の実現に向けて避けては通れなくなりつつあるからだ。

 日本の自動車メーカーは2050年までにカーボンニュートラルを実現すると発表済みだが、その達成目標時期の前倒しに動いている。例えば、トヨタ自動車は2021年6月に「2035年までに世界の自社工場で二酸化炭素(CO2)の排出を実質的にゼロにする」と宣言した(図1)。急きょ、達成時期の目標を15年も前倒ししたのだ。

図1 カーボンニュートラル達成を急ぐトヨタ自動車
図1 カーボンニュートラル達成を急ぐトヨタ自動車
世界の自社工場の全てで2035年までにCO2の排出量を実質ゼロにする目標を打ち出した。これが材料のバイオシフトの加速も促す。(出所:トヨタ自動車の資料を基に日経ものづくりが作成)
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 この目標の前倒しに向けて、白羽の矢が立ったのが樹脂のバイオ化である。植物をはじめ再生可能な生物由来の有機性資源(化石資源を除く)であるバイオマスを積極的に原料に使う、いわゆる「樹脂のバイオシフト」が自動車業界の最前線で起きているのだ。

「半年後には定量目標が降りてくる」

 狙いは、ずばりCO2排出量の大幅な削減にある。「クルマの製造段階に発生するCO2排出量の9割以上は材料や部品の原料が占めている。従って、樹脂をはじめ原料の段階からCO2排出量を抑えなければ、自動車メーカーはカーボンニュートラルを実現できない」(住友ベークライト)という現実があるのだ。

 自動車メーカーのこうした動きを見越して、樹脂の段階からCO2排出量を下げないと、早晩、自動車メーカーの採用・調達基準を満たせなくなると、1次部品メーカーは考え始めている。「自動車メーカーが1次部品メーカーに対してCO2削減に関する具体的なスケジュールを示すのはこれから。だが、明確な定量目標は今年(2022年)から来年(2023年)にかけて降りてくるはずだ」(住友ベークライト)。

 カーボンニュートラルの実現に対する目標が宣言から実践段階へと切り替わった今、樹脂のバイオシフトは加速する一方だ。