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新素材の開発には長い時間を要する。数年から十数年の開発期間も珍しい話ではない。そのため、材料メーカーは未来に必要な素材を思い描き、常に先回りの研究開発を進めている。顧客から求められてから動くのでは遅いのだ。では、来るカーボンニュートラル(温暖化ガスの排出量実質ゼロ)時代に向けては、どう備えているのか。国内材料メーカーの動きを追った。

 DIC 
量産目前、藻類由来のポリオール

 「ビジョンとしてバイオに振り切っている」─。DICが樹脂のバイオシフトを急いでいる。同社は2022年2月18日に、2030年までの長期経営計画「DIC Vision 2030」を発表。2025年に「サステナブル(持続可能な)製品」の売り上げを50%に、2030年には60%まで引き上げる目標を打ち出した。樹脂のバイオ化はこの方針に沿ったものだ。

 中でも、同社が力を入れるものの1つに、藻類由来のポリオール「Checkerspot Polyol 002」がある(図1)。微細藻類から抽出したオイルから造るポリオールで、ウレタンフォームや熱硬化性ポリウレタン(PU)などの原料となる。バイオマス度が90%と高い。バイオ系ベンチャー企業である米Checkerspot(チェッカースポット)とDICの共同開発だ。

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図1 藻類由来のポリオール(a)と微細藻類の顕微鏡画像(b)
(写真:日経ものづくり)

 既に量産可能な段階にあり、DICは応用分野を探している。サンプルとして、スマートフォンのケースやキャスターのタイヤ、バックカントリー用スキー板の外皮などを試作している(図2)。現在は、研究開発用に20万~30万円/kgの値付けで提供しているが、量産化すれば、現行の石油由来の樹脂と「それほど変わらない価格を検討する」(DIC)という。

図2 藻類由来のポリオールから造ったポリウレタンの成形品
図2 藻類由来のポリオールから造ったポリウレタンの成形品
中央がスマホケース、右の2つがキャスターのタイヤ、奥がバックカントリー用スキー板。ただし、写真のサンプルはCheckerspotがDICに提供したもの。(写真:日経ものづくり)
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塗料用の樹脂もバイオ化

 DICは、塗料に使うバイオマスアクリル樹脂「アクリディックAU-7015-BIO」も開発している。無色透明の樹脂で、顔料や添加剤を加えて塗料に仕上げる。自動車や家電製品などへの塗料に向く。植物由来の原料と石油由来の原料を組み合わせたもので、バイオマス度は26%。ただし、原料は明かしていない。将来的に顔料や添加剤にバイオマス原料を使用すれば、さらにバイオマス度が上がる。

 アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)やポリカーボネート(PC)への付着性が高く、アルコールや日焼け止めクリームへの耐性に優れている。そのため、例えば自動車の内装に使った場合、車内をアルコールで拭いても、日焼け止めクリームが付いても傷みにくい。そのため、例えば自動車部品では、インスツルメントパネルのセンターコンソールや、ドアトリムの操作スイッチ部分の塗料用途に適する。

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