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 ドイツの製造業と言えば「インダストリー4.0(Industry 4.0)」。特に「HANNOVER MESSE」はここ数年、インダストリー4.0の祭典という側面があったと言っていいだろう。

 しかし、3年ぶりのリアル開催となる「HANNOVER MESSE 2022」では、インダストリー4.0の中核を成すデジタル技術と同等、もしくはそれ以上に、環境・エネルギー対策に関連する技術の展示が目立った。「脱化石燃料」「再生可能エネルギー」などカーボンニュートラル(温暖化ガス排出量実質ゼロ)への動きが加速していたのだ。

 そんな動きを象徴するのが、ドイツSiemens(シーメンス)取締役兼デジタルインダストリーズ最高経営責任者(CEO)のCedrik Neike(セドリック・ナイケ)氏のスピーチだった。

 ドイツ・Siemens 
「インダストリー4.0は実現した」

 「11年前に提唱したインダストリー4.0がここにきて、急速に実を結んでいる」─。ナイケ氏は2022年5月30日、HANNOVER MESSE 2022における報道機関向けの会見でこう語った(図1)。

図1 ESTAINIUM協会の発足を発表するナイケ氏
図1 ESTAINIUM協会の発足を発表するナイケ氏
ドイツSiemens取締役兼デジタルインダストリーズCEOのナイケ氏。後ろにはESTAINIUM協会の会員企業らの名前が並んでいる。(写真:日経クロステック)
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 シーメンスは同日、製品の二酸化炭素(CO2)排出量に関わる情報を供給網(サプライチェーン)全体で共有する目的で14の企業などと協会を立ち上げると発表した。同協会の会員が主体となり、CO2排出量の計算方法の標準化などに取り組む。ナイケ氏が冒頭の発言を行ったのは、この席でのことだった。

 ナイケ氏は、気候変動や新型コロナウイルス感染症、ウクライナ侵攻問題などに伴うサプライチェーンの寸断という3つの難題をきっかけに、デジタルツインに代表されるインダストリー4.0のコンセプトが次々と実現したとの見解を示した。

 一方で、社会環境が大きく変わる中、「インダストリー4.0の追求だけでは不十分」との考えも示した。重視するのは気候変動への対応だ。

 世界経済フォーラムによると、産業界のバリューチェーンは世界全体のCO2排出量の2割を占める。ただCO2削減は1社で取り組めるものではなく、「製品のCO2排出量の最大9割は、上流のサプライチェーン(供給網)であらかじめ決まってしまう」(ナイケ氏)のが現状だ。製品の脱炭素化にはサプライチェーン全体でCO2排出量に関わるデータを共有・把握し、それを減らしていく必要がある。

 そこで、CO2など気候変動関連データをサプライチェーン全体で共有できる環境を構築する「ESTAINIUM協会」を立ち上げた*1。日本からはNTTデータが参加する。

*1 シーメンスの他にはドイツの製薬大手のメルク、同国の大学など合計14の企業・団体が発足時の会員となる。ナイケ氏は「ドイツだけ、欧州だけで完結する取り組みではいけない」と日本企業が参画する意義を強調した。

「気候変動対応には11年もかけられない」

 ESTAINIUM協会の活動の柱となるテーマは、「技術開発とインフラ整備」「測定方法などの標準化と規格整備」「CCUS(CO2の回収・再利用・貯留)と埋め合わせ」の3つ。それぞれについて、会員企業間で情報共有したり、共同研究したりする構想だ。その上で、CO2の測定方法などが複数あることから、データの標準化にも取り組む。現状を把握した後は、CCUSなどの技術について情報共有を図る。

 ナイケ氏は「信頼性と比較可能性のあるデータ収集が重要。インダストリー4.0の実現には11年かかったが、気候変動問題には11年もかけられない」と訴える。今後、協会の会員企業を増やし、脱炭素に向けた情報の集積する場にしていく考えだ。

水素関連企業が集結

 このように気候変動をはじめとする環境・エネルギー対策の必要性が訴えられる中で、CO2の削減対策として、太陽光発電や風力発電など再生可能エネルギーの活用が進められているのは周知だろう。その中でも、HANNOVER MESSE 2022で特に目立ったのが水素関連の技術だ。

 展示会場として使用していた10会場のうちの1つであるホール13には、「水素+燃料電池」と書かれた大きなオレンジ色の垂れ幕がいくつも掲げられ、水素市場での拡大を狙う企業が集結した(図2)。

図2 「水素+燃料電池」と書かれた垂れ幕
図2 「水素+燃料電池」と書かれた垂れ幕
(写真:ドイツメッセ)
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