「長期的取り組みで成果を出せる材料技術は日本の強み─などというのは過去の幻想」〔新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)材料・ナノテクノロジー部統括研究員の依田智氏〕。かつて、長期的に研究開発を進められる企業が多かった日本は、短期的な成果を求められて長期的活動が難しい海外の企業よりも、材料開発では有利な立場にあった。
例えば、1990年代後半から日本ゼオンの高機能材料事業をけん引したCOP(シクロオレフィンポリマー)。プラスチック材料でありながら吸水性*1がほとんどなく、高い透明性を持つ。ガラスに代わる光学部品材料としてさまざまな分野の機器に普及した。
プラスチックが水を吸う性質。寸法変化の原因になる。吸水率はポリアミド(ナイロン)66で2.5%程度、ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)で0.3%程度なのに対して、COPは0.01%未満。
同社でこの材料が開発案件に上がったのは1986年のこと。本格的な普及に至るまでには10年の時間を要した1)。このように材料開発は、10年や20年の時間をかけるのが普通だった。
しかし、材料開発の所要期間は劇的に短縮している。コンピューターによるデータ処理で材料開発を進めるマテリアルズ・インフォマティクス(MI)が現実のものになってきたためだ。長期的視点での活動に特に強みを持たない企業であっても、材料開発の手段を得られるようになっているのだ(図1)。