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 デジタル技術の応用による顧客サービスの改善はDXの大きな目標の1つ。きっぷの発券システムのデジタル化、きっぷ自体のデジタル化に続いて、これまでのきっぷの概念を大きく拡張する試みが進んでいる。さらに、防犯や安全、運行、観光などの情報を的確に旅客へ提供するサービスが大容量通信によって可能になってきた。

スマートフォンや
クレジットカードで乗車

 磁気券や交通系ICカードを使わず、スマートフォンやクレジットカードで改札機を通れるサービスの拡大を鉄道事業者が模索している。JR東日本は2022年11月8日、スマートフォンに表示したQRコードで乗車できるサービスを2024年度下期から導入すると発表した(別掲記事参照)。近畿日本鉄道(近鉄)も2022年3月にやはりQRコードを使ったデジタルきっぷの利用を開始。南海電気鉄道など数社はクレジットカードで直接改札を通れるサービスの実証実験を実施している。

期限を付け不正利用防止

 近鉄の「デジタルきっぷサービス」は、スマートフォンに表示したQRコードをかざすと改札を通れるサービス(図1)。スマホ用の専用アプリを用いず、簡便に利用できるようWebアプリとして実装した。近鉄名古屋駅と観光地である伊勢志摩方面との間の運賃に加えて、バスやレンタカー、観光施設などでも利用できる企画乗車券(周遊券)として「伊勢神宮参拝デジタルきっぷ」「志摩スペイン村満喫デジタルきっぷ」など4種類を2022年3月14日に発売、同17日から利用を開始した。

図1 近畿日本鉄道の「デジタルきっぷサービス」
図1 近畿日本鉄道の「デジタルきっぷサービス」
「鉄道技術展・大阪」(2022年5月25~27日)で展示した。(出所:近畿日本鉄道の説明パネルを日経ものづくりが撮影)
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 利用者はあらかじめWebサイト「きんてつチケットEモール」でデジタルきっぷを購入。この時点でQRコードは表示されず、改札を通る直前にスマホ画面での操作により、5分間有効なQRコードを表示できる。5分以上経過すると無効になるため、第三者がQRコードのスクリーンショットを取得してもほぼ不正乗車はできない。正当な購入者が5分以内に改札を通れなかった場合は、QRコードの再発行を依頼でき、再び5分間有効のQRコードが画面に現れる。

 近鉄名古屋駅と、伊勢志摩方面の伊勢市駅〜賢島駅間の6駅を合わせた7駅の自動改札機には、QRコードの読み取り機能を追加。後付け可能な基板やユニットを利用して改造した。QRコードから読み取った情報はLTE(Long Term Evolution)通信でサーバーに送り、異状がないかを判定する。

 遠方や海外からの観光客などにとって、磁気券やICカードの取得は余分な手間になる。そこで割安な料金で周遊できたり、他のサービスを合わせて受けられたりできる企画乗車券をデジタル化すれば、観光客は出発前に購入しやすくなる。鉄道事業者にとっては「新型コロナウイルス禍で旅行会社が店舗数を削減する中で、販売機会の確保が急務になっており、その対策としても期待できる」(近鉄)。

 さらに発券する業務や現金を取り扱う業務の手間の削減、発券に伴う資材や設備のコストの削減が見込める。関連サービスを含めた利用状況をデータで分析でき、新たなサービスの設計に利用できるなどのメリットもある。