核融合発電の商用化に向けて産業界の動きが活発化している。各国政府主導の研究プロジェクトが進んでいるほか、近年は核融合発電関連のスタートアップの起業が相次いでいる。基礎研究の進展によって商用化が視野に入ってきたことで、企業の参入や開発がさらに加速しそうだ。
核融合は「地上の太陽」とも形容される次世代のエネルギー技術だ(図1)。1gの燃料で石油8トン分に相当する膨大なエネルギーを得られるとされ、実現すれば世界が抱えるエネルギー問題を一挙に解決できる可能性がある。発電への応用は2050年以降になると見られていたが、企業の参入が増えたことで実現時期が「2030年代後半から2040年代に早まるのでは」との期待が高まっている。
ビル・ゲイツやジェフ・ベゾスら出資
この動きを後押ししているのは、スタートアップの増加だ。業界団体のFusion Industry Association(フュージョン・インダストリー・アソシエーション、FIA)によれば、2022年までに30社以上が起業したという。特に米国では20社以上が起業しており、スタートアップへの投資も活発化している。
例えば、米Massachusetts Institute of Technology(マサチューセッツ工科大学、MIT)発のCommonwealth Fusion Systems(コモンウェルス・フュージョン・システムズ)や、Helion Energy(ヘリオン・エナジー)は2021年までに約20億米ドル(約2600億円)を調達して話題になった(表)。米Microsoft(マイクロソフト)創業者のビル・ゲイツ氏や米Amazon.com(アマゾン・ドット・コム)創業者のジェフ・ベゾス氏などがこうしたスタートアップに出資していることで知られる。調達した資金を生かしてスタートアップが自前の核融合炉を開発する動きも出ている。
日本でも大学や研究機関の出身者によってこれまでに数社のスタートアップが創業した。大学などで培った独自技術を生かし、核融合炉や要素部品の開発に取り組んでいる。日本は60年以上も前から核融合の研究に取り組んできたこともあり、大学や民間企業が多くの要素技術を保有している。スタートアップにはこうした技術を活用して核融合発電を実現する原動力になることが期待されている。
豊富な燃料、少ないリスク
核融合反応は、重水素と三重水素を高温・高圧下で融合させることで起こる(図2)。重水素は海水に豊富に含まれており、回収する技術も確立している。一方、三重水素は天然にはほとんど存在しないものの、核融合反応で生じる中性子をリチウムに照射することで生成できるので、日本でも十分に確保できる。石油や天然ガスと異なり、資源の偏りが少ないことから、理想的な次世代エネルギーと目されている。
核分裂の連鎖反応を利用する原子力発電と比べて、核融合は燃料の投入を止めれば反応も止まるので比較的制御しやすい。燃料の三重水素と核融合炉には放射線リスクがあるものの、原子力発電に使う核燃料に比べて危険性は低く、半減期(放射性物質の量が半分になるまでの時間)も短いので、原子力発電のような高レベル放射性廃棄物を出さない。つまり、事故発生時の被害を抑えられるという利点がある。
ロシアによるウクライナ侵攻に端を発する世界的な燃料価格の高騰により、新しい発電技術のニーズは高まっている。核融合反応は二酸化炭素(CO2)を排出しないので、カーボンニュートラルの実現にも寄与する。