核融合発電の実現に向けてスタートアップの役割が増している(図1)。大学や研究機関が培った最新技術をスタートアップが事業化することで、核融合の早期実現に期待がかかる。日本でも先端技術の開発などで活躍する事例が出始めている。
Helical Fusion(ヘリカルフュージョン、東京・中央)は、磁場閉じ込め核融合のヘリカル型と呼ばれる核融合炉の開発に取り組んでいる(図2)。核融合炉に必要な部材や要素技術の実証を進め、2034年にも世界初となる核融合発電を開始する計画だ。
同社は、核融合科学研究所(岐阜県土岐市)などで長年研究してきた研究者らが2021年に創業した。これまで同研究所が実証してきたプラズマ技術などを応用して、核融合炉を構成する機器を開発する。具体的には、プラズマ中の不純物を排気するダイバーターや、プラズマを閉じ込めるための超電導マグネット、中性子を受け止めて熱を回収するブランケットなどである。
同社はダイバーターやブランケットに液体金属を使う独自手法を採用する。液体金属の循環により効率的に熱回収でき、メンテナンスの頻度を下げられるという。核融合炉では劣化により2年に1度ほど部材を交換する必要があり、現状の固体を使う方法では部材交換の労力やコストが膨らむという課題がある。
同社共同創業者代表の田口昂哉氏は、「パートナー企業との連携や資金調達が一番の課題だが、技術的な開発は進んでおり、2027年にも実験炉を建設したい」と語る。挑戦的な目標の裏には、同研究所がこれまでに積み重ねてきた実績がある。
同研究所は巨大ならせん状の構造を持つ大型ヘリカル装置(LHD)を運用しており、1億℃のプラズマ温度や1時間近いプラズマ保持時間を世界で初めて達成している(図3)。こうした知見を生かすことで、他方式の核融合と比べて早期の商用化が可能になると意気込む。