核融合発電の商用化に向けた研究開発や投資が活発化するなか、関連技術を持つ大企業も事業拡大に動き出している。スタートアップの実験炉建設に向けて、一部のメーカーは関連製品の供給を始めた。
古河電気工業(古河電工)は超電導線材で高い競争力を持ち、多くの核融合実験設備へ納入している。2023年1月には核融合スタートアップの英Tokamak Energy(トカマク・エナジー)と高温超電導線材の供給契約を結ぶなど、引き合いが強まっている(図1)。核融合が実現すれば超電導線材の膨大な需要が期待でき、世界有数の量産体制を持つ古河電工の存在感が高まりそうだ。
超電導線材、高温も低温も供給
古河電工は、トカマク・エナジーが建設を目指す核融合パイロットプラント向けに、数年間にわたって数百kmにおよぶ高温超電導線材を供給する。トカマク・エナジーは2030年代前半にも核融合による試験発電を実現する計画で、核融合に必要なプラズマを磁場で閉じ込める用途に高温超電導線材を使う。
超電導線材は極低温下で電気抵抗がゼロになる導線材料で、強力な磁場を発生させる用途などに利用する。比較的高い温度で使える高温超電導線材は高磁場マグネットに利用でき、低温超電導線材は安定した性能が求められる場面に使う。高温と低温の両方の超電導線材を製造できるメーカーは古河電工だけだといい、核融合向けで顧客のニーズに合わせて提案できる強みがある。
同社はこれまで、大型国際プロジェクトの核融合実験炉「ITER(イーター)」や、日欧共同プロジェクトの核融合実験炉「JT-60SA」に超電導線材を納入し、技術やノウハウを培ってきた(図2)。足元ではエネルギー価格の上昇やカーボンニュートラル需要を受けて、各国で核融合プロジェクトの前倒しが相次いでいる。「(線材に限らず、関連部品や機器も併せて需要が高まることで)核融合発電関連が注力事業になる可能性は十分にある」(同社)と期待を寄せる。
複数の核融合スタートアップが2030年代の商用炉建設を計画しており、市場への投資が活発化している。計画が順調に進めば20年後に膨大な製品需要が見込める。小型核融合炉1基に数十億円分の線材が必要で、商用化が始まると需要は100倍以上に増えるとの予測もある。同社は詳細な見通しを明かしていないものの、「将来の需要を満たすには、さらに供給能力と生産性を高める必要がある」(同社)という。