全3359文字
PR

 ここからは企業向け無線LANの構築を容易にする技術として、クラウド型無線LANサービスとメッシュWi-Fiを紹介しよう。

WLCを自前で用意せず集中管理

 クラウド型無線LANサービスを使えば、サービス提供事業者がクラウドサービスに実装したWLCを使える。このため利用者は調達や初期設定の手間を軽減できる(図3-1)。企業向け無線LANの導入時に特に負担となる、認証の仕組みを合わせて提供するサービスが多い。

図3-1●クラウド型無線LANサービスの特徴
図3-1●クラウド型無線LANサービスの特徴
クラウド型無線LANではクラウドサービスにあるWLCや認証サーバーを通じて、無線LANを管理する。利用者はこうした仕組みを実現する手間を省ける。
[画像のクリックで拡大表示]

 クラウド型は、費用のかかり方がオンプレミスとは異なる。オンプレミスのWLCを導入する場合、アプライアンス製品だと1000万円近くするものもある。クラウド型はWLCを購入する必要がないため初期費用を低く抑えられる。その点でも導入は容易と言えるだろう。一方で月々のライセンス費用などで維持費用は高くなる。

 多くのクラウド型無線LANサービスはネットワークの設定を変更するWLCの機能だけでなく、管理を効率化する機能を備えている(図3-2)。例えばAPを含むネットワーク機器の監視は、オンプレミスとは異なり、専用の監視サーバーを構築する必要がない。ネットワーク機器の設定値や固有情報などの一覧が可能なインベントリー管理の機能も、運用負荷の軽減に寄与する。利用状況をヒートマップなどにして可視化する機能もある。

図3-2●クラウド型無線LANサービスの主な機能
図3-2●クラウド型無線LANサービスの主な機能
クラウド型無線LANサービスの多くはWLCの機能(ネットワークの設定変更)に加え、管理に有用な機能をクラウドから利用できる。
[画像のクリックで拡大表示]

主要ネットワークベンダーが参入

 通信事業者やシステム構築事業者など、クラウド型無線LANサービスを提供するベンダーは多い。主要なネットワーク機器ベンダーも参入している。同じベンダーの製品であれば、無線LAN以外のネットワーク機器も統一的に管理できるメリットがある。

 米シスコシステムズは「Cisco Meraki」というクラウド型無線LANサービスを提供している。対応するAPを購入し、ネットワークにつなげばすぐに使い始められる点がCisco Merakiの特徴だ。APがクラウドのWLCと自動的に接続し、以降はクラウド経由で設定変更や利用状況の確認が可能になる。

 Cisco Merakiを導入した企業の1社がビックカメラだ。2019年2月から2021年12月にかけて、260以上の拠点へ2400台以上のAPを設置した。ビックカメラ事業開発部課長の深川 純也氏は「Cisco Merakiは設置現場での設定が不要。導入の容易さなどから選定した」と話す。

 米ジュニパーネットワークスのクラウド型無線LANサービス「Juniper Mist」には「ダイナミックパケットキャプチャ」という機能がある。端末が認証に失敗するといった障害の予兆を検知するとパケットキャプチャーを実行する。利用者はその結果を障害の予防や原因究明に活用できる。