この1年間でテレワーク環境は急速に普及した。多くの従業員にとっては通勤時間の削減といったメリットがテレワークにはある。しかしネットワーク管理者にとっては悪夢の原因にもなる。トラブル発生時の対応だ。社員がオフィスに集まっているならば、パソコンや企業ネットワークにトラブルが発生しても管理者は現場にすぐに駆け付けられる。トラブル解決の糸口も見つけやすい。
しかしテレワーク環境ではそうはいかない。ネットワーク管理者はオフィス外から対応しなければならない。状況の把握に手間取りがちだ。パソコンの画面を見ればすぐに原因が分かるトラブルでも、解決に時間を要してしまう。アクタスソフトウェア社長の坂下秀さんが遭遇したトラブルもテレワーク環境ならではの事例だった。
リモートデスクトップで社内パソコンを操作
東京都にオフィスを構えるアクタスソフトウェアは小規模な会社である。坂下さんは社長でありながらオフィスのネットワーク管理なども手掛けている。
アクタスソフトウェアは2020年4月、東京都に発出された緊急事態宣言に合わせてテレワークに移行した。取引先の企業がセキュリティーを重視していることもあり、社外にパソコンを持ち出すのは避けたい。そこでVPNで社員の自宅とオフィスを接続し、RDPを利用したWindowsのリモートデスクトップを使って各自オフィスのパソコンを操作することにした。
ところがテレワークを開始して2週間ほどした2020年4月17日の午前のこと。社員Aさんからビジネスチャットツールの「Teams」を介して連絡が入った。「オフィスに設置したパソコンにアクセスできない」という内容だ。
Aさんはオフィスに設置したWindows10パソコン(ホストパソコン)の仮想化機能(Hyper-V)を使い、Windows 10上にゲストOSとしてLinux(Ubuntu)環境を構築していた。Aさんは自宅のパソコンからオフィスのLinux環境にポートフォワードの機能を使ってSSHで接続し、CUIで開発業務を進めていた。Aさんによれば、昨日まではログインできていたのに、今朝になったらログインできなくなったという。
Aさんからの連絡を読んだ坂下さんは「まずAさんのパソコンが故障したのではないかと考えました」と話す。もしパソコンが故障しているなら、オフィスに出向き早急にパソコンを調べなければならない。データの復旧作業も必要になる。坂下さんは出かける準備をしながら詳しい状況を把握することにした。