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 ハッキング技術を用いて政治的・社会的思想を主張する人やグループを「ハクティビスト」、その行動を「ハクティビズム」といいます。このハクティビズムに関する興味深いリポートが公開されました。米国のセキュリティー企業であるレコーデッドフューチャーが2019年8月21日に公開した「フォルスフラッグと衰退する国際的ハクティビズム」です(図1)。

図1●セキュリティー企業が「ハクティビズム」に関するリポートを公開
図1●セキュリティー企業が「ハクティビズム」に関するリポートを公開
米国のセキュリティー企業であるレコーデッドフューチャーは2019年8月21日、ハクティビズムの10年間の動きを分析したリポートを公開した。ハクティビズムとは、ハッキング技術を用いて政治的・社会的思想を主張する行動のこと。
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 今回はこのリポートを取り上げます。

ハクティビズムをかたる国家

 リポートのタイトルにあるフォルスフラッグは、軍の構想に由来する用語です。偽旗作戦と訳されます。別の個人やグループの旗を掲げて行動を起こし、その結果を別の個人やグループのものだと見せかける作戦を指します。リポートでは、ハクティビズムのふりをして国家が実行するサイバー攻撃もあるとしています。

 本来のハクティビズムは、捕鯨や海賊版ソフト対策、プライバシーの侵害になりそうな法案などに抗議する活動です。海賊版ソフト対策とは、海賊版ソフトのダウンロードを制限することです。ハクティビストは、こうした制限はネットの自由を侵害すると主張しています。

 これに対してフォルスフラッグと疑われる行動は、テロや紛争を抑えたり、諜報活動をしたりする地政学的な目的で実行されるものです。

 リポートでは、ハクティビズムとフォルスフラッグを同じように扱うとしています。国家の支援を受けるハクティビズムもあるので、本来のハクティビズムとフォルスフラッグを切り分けるのは難しいのでしょう。

アノニマスの起源は「4chan」

 リポートではハクティビズムの歴史として、米国、ロシア、中国、ブラジルの4カ国の活動をそれぞれ紹介しています(図2)。

図2●国別のハクティビズム
図2●国別のハクティビズム
米国、中国、ロシア、ブラジルの4カ国のハクティビズムを紹介している。ここで示したグループの名前は関連性が疑われたり、推測されたりしたもの。
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 まずは米国です。ハクティビストという言葉は、米国で生まれました。1980年代に結成されたハッカーグループ「Cult of the Dead Cow(CDC)」が1994年、自らを「ハクティビスト」と呼んだのです。彼らは、検閲に反対する活動をしていました。

 米国では90年代後半になると、脆弱性を持ったまま出荷される製品が目立つようになりました。ハクティビストは、脆弱性を悪用して不正侵入し、ベンダーに安全な製品を求めるという行動に出ました。米国議会に呼ばれて、製品のセキュリティー不足を指摘するハッカーグループもいました。

 2003年にはムートというハンドル名のユーザーが「4chan」という電子掲示板を作りました。ここで匿名(アノニマス)の意見交換が活発化します。書き込みをした人をアノニマスと表示したことが、ハクティビスト「アノニマス」の起源だといわれています。