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 日本で5G(第5世代移動通信システム)の商用サービスが始まってから早くも3年が過ぎようとしている。韓国や中国など近隣諸国と比べて日本の5Gの出遅れが指摘される中、特にミリ波帯(国内では28GHz帯)を使った5G展開の難しさが浮かび上がっている。ミリ波帯で処理されるトラフィック量がほぼゼロであり、ほとんど使われていない実態が明らかになったからだ。ミリ波帯の5Gを後回しにし、Sub6帯(2.5G~6GHz帯)の周波数帯を使った5G展開に注力すべきだという意見も出ている。

ミリ波帯の端末普及がネックに

 「5Gのトラフィック量は、国内すべてのモバイルトラフィックのうちの3~4%にすぎない。特にミリ波帯で運ばれるトラフィック量は非常に少ない」。2023年2月9日に開催された総務省の有識者会議「5Gビジネスデザインワーキンググループ(WG)」にて、楽天モバイル執行役員技術戦略本部長の内田 信行氏は、日本の5Gの実態をこのように訴えた(図1)。

図1●5Gのモバイルトラフィック量は全体の3~4%
図1●5Gのモバイルトラフィック量は全体の3~4%
5Gの利用状況。総務省資料に基づいた楽天モバイルの発表データから作成した。通信事業者大手4社における5Gのモバイルトラフィック量は全体の3~4%程度で、ミリ波帯はほとんど使われていない。
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 国内の5G基地局は、5G専用帯域のSub6帯やミリ波帯のほか、4G帯域を転用した700MHz帯や1.7GHz帯、3.5GHz帯などのローバンド・ミッドバンドによって展開されている。5Gならではの高速・大容量通信を実現するためにはSub6帯やミリ波帯を活用する必要がある。

 総務省の調べによると5Gの全国人口カバー率において、4G帯域を転用したローバンドやミッドバンドの寄与が大きく、ミリ波帯における人口カバー率は0%だった(図2)。ミリ波帯で処理されているトラフィック量もほぼゼロとなっている。

図2●ミリ波の人口カバー率は0%
図2●ミリ波の人口カバー率は0%
帯域別の各社5G基地局数と人口カバー率(2022年3月末時点)。総務省の資料を基に作成。5Gの全国人口カバー率93.2%はローバンド・ミッドバンドによる寄与が大きい。ミリ波帯(28GHz帯)のカバー率は0.0%。
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 なぜミリ波帯の5Gはこれほどまでに使われていないのか。理由は2つある。1つは、ミリ波帯のような高い周波数帯は、遮蔽物によって電波を遮られやすく、エリア展開が難しいという点だ。諸外国でもミリ波帯の活用は、スタジアムや医療関連施設などスポット的な活用が主なユースケースだ。

 もう1つの理由として、日本におけるミリ波帯対応の5Gスマホが、ハイエンド機種など一部に限られる点も挙げられる。特に日本で大きなシェアを持つ米アップルの「iPhone」は、国内販売されるモデルはミリ波帯非対応である。

 ミリ波帯対応端末が利用者に浸透しなければ、いくらネットワークを展開したところでミリ波帯の活用も増えない。結局、現在の日本では、携帯電話事業者が積極的にミリ波帯を展開するモチベーションを得られないサイクルに陥っている。