部屋の天井からつり下げられた電球の振動を見て室内を盗聴する――。そんなスパイ映画顔負けの盗聴手法が2020年6月に発表された。電球(lamp)をマイクロホン(microphone)として使うので「Lamphone」と命名された。
電球の微細な振動を望遠鏡で観測することで、室内で交わされている会話を遠く離れたところからでも盗聴できるという。本当にそのようなことが可能なのだろうか。
セキュリティー国際会議で話題に
Lamphoneは、イスラエルのネゲブ・ベン=グリオン大学とワイツマン科学研究所の研究チームが開発した。
2020年8月初めに開催されたセキュリティーの国際会議「BlackHat USA 2020▼」で発表されて話題になった。2020年10月に日本で開催されたセキュリティーの国際会議「CODE BLUE 2020▼」でも発表された。
発表者はいずれもネゲブ・ベン=グリオン大学のベン・ナッシ氏。ナッシ氏は自身のWebサイト▼でLamphoneの詳細を公表している。
CODE BLUE 2020での発表やナッシ氏のWebサイト、研究論文などによると、Lamphoneの仕組みは次の通り(図1)。
盗聴対象(被害者)の部屋の中で音声が発生すると、わずかではあるが空気が振動する(同(1))。それにより天井からつり下げられた電球がわずかに振動する(同(2))。盗聴者(攻撃者)は望遠鏡を使って振動する電球の光をセンサーに取り込み(同(3))、その信号を元の音声に変換する(同(4))。
マイクロホンを使うことなく間接的に盗聴する手法は以前から存在する。以下の3つがよく知られている。
ジャイロホン(Gyrophone)
レーザーマイクロホン(Laser Microphone)
ビジュアルマイクロホン(Visual Microphone)
ジャイロホンは、スマートフォンに組み込まれたジャイロスコープ(ジャイロセンサー)を使う手法である。最近のジャイロスコープは、スマートフォンの周りの振動を高い精度で検出できるという。
このため盗聴対象のスマートフォンに細工を施したアプリをインストールしておけば、ジャイロスコープを使った盗聴が可能になる。それがジャイロホンである。2014年に米スタンフォード大学などの研究チームが発表した。
「それなら、スマートフォンのマイクロホンを使って盗聴するアプリをインストールすればいいじゃないか」と思う人がいるだろう。だがマイクロホンにアクセスするには特別な権限が必要になる。一方、ジャイロスコープへのアクセスには特別な権限は必要ない。このこともジャイロホンの利点として挙げられている。
とはいえ、盗聴対象が所有する、あるいは盗聴対象がいる部屋に置かれたスマートフォンに盗聴者のアプリを仕込まなければならないことは同じだ。