とある企業の情報システム部門。そこで元気一杯に働いているのが、ちょっと頼りない若手社員、通称「ネコSE」だ。セキュリティに関する豊富な知識を持つ「センパイ」に日々、鍛えられている。今回は、ログについて考えてみたぞ。
センパイ:猫瀬君、何だか今日は表情が暗いね。
ネコSE:ええ、実はこのごろ三毛子さんがそっけないんです。でも理由が全くわからなくて。
センパイ:片思いだしなぁ。
ネコSE:これといって思い当たることもないんです。
センパイ:いつからなんだい?
ネコSE:日記を見ればわかるかもしれません。
センパイ:お、素晴らしいね。
ネコSE:いきなりほめられた。何が素晴らしいんですか?
センパイ:ちゃんと記録を取っているということさ。記録をちゃんと取っておけば、何かあったときに原因を調査できるからね。コンピュータと一緒だね。
ネコSE:何が一緒なんですか?
センパイ:ログさ。
ネコSE:ええと、ログって何でしたっけ?
センパイ:ざっくりいえば、記録のことだね。コンピュータがどんな動作をしていたかを記録として残しておく。記録を残すことを「ログを取る」というよ。有事の際にはログを調査することで原因を調べるんだ。
ネコSE:私は三毛子さんとの出会いから今日までをWebの日記につけていますが、これもログなんでしょうか?
センパイ:それはいわゆるブログだね。もともと「ウェブログ」と呼ばれていたものを短縮した言葉だ。語源は「WebにLogする」ことだそうだよ。
ネコSE:ログで家を建てたらログハウスですね。なんちゃって。
センパイ:いや、そんなに的外れじゃないよ。ログの語源は丸太だといわれているよ。つまりログハウスのログだ。
ネコSE:今日も才能を無駄使いしちゃいました。
センパイ:昔の人は、丸太にロープを結んで海に投げ入れ、船の速度を測っていたそうだよ。なので、航海日誌のことをログブックと呼ぶとか。
ネコSE:雑学王になれそうです。
センパイ:例えば、猫瀬君が何かの事件に巻き込まれて、犯人に仕立て上げられたとするね。
ネコSE:ぐむむ。真犯人は別にいるということですね。もしかしてこの部屋に…。
センパイ:日記を毎日つける習慣があれば、その日、その時間に何をしていたかがわかる。いい意味でアリバイができるね。
ネコSE:三毛子さんとの空想デートも結構な頻度でありますが、大丈夫でしょうか。
センパイ:うーん、それじゃ内容については参考にならないな。妄想癖があるのは不利かも。
ネコSE:それは残念です。これからは事実と空想を分けて書くよう気をつけます。
複数のログを突き合わせる
センパイ:実は、人間が作成してコンピュータに保存した電子的な文書は、証拠としてはあまり効力がないという考え方もある(図1)。本当のことを書いている保証はないからね。
ネコSE:じゃあ結局、私のブログは役に立たないということですか?
センパイ:安心してくれたまえ。コンピュータが生成するログをちゃんと取っておけば、潔白を証明できるよ。電子的証拠として効力があるのはコンピュータが生成した記録だ。
ネコSE:自動的に生成されたもののほうが証拠として価値が高いんですね。
センパイ:ブログサービスのシステムのログや、猫瀬君のパソコンのログ、ISP▼のログ、こうした様々なログを突き合わせてみて矛盾がなければ、猫瀬君の無実を証明できる。
ネコSE:突き合わせるってどういうことですか?
センパイ:システムは通常、いろいろなハードウエアやソフトウエアによって成り立っている。また、通信はいろいろなシステムを経由して成り立つケースが多い。そこで、時系列に沿ってそれぞれのログを追っていくと、例えばある日に猫瀬君がまず何をして、次に何をして、いつ帰ったか、といった具合に行動を推測できるんだ(図2)。
ネコSE:私の1日の行動がわかるわけですね。
センパイ:そう。朝から夕方まで勤務時間中のことがわかる。具体的に見ていこうか。まず9時1分に出社。これは監視カメラで検知して入退室管理システムのログに記録されている。次に9時5分にパソコンを起動。これはパソコンのログだね。すぐにインターネット閲覧か。これはプロキシサーバーのログだ。
ネコSE:私の行動が丸見えになっていてちょっと怖いですね。
センパイ:次に社内システムにログイン。資料を印刷して退室、と。これらの行動もログに記録されているな。あれ、退室だって? 9時過ぎに出社して9時半前には退室してるじゃないか。出社して30分もたってないぞ。何をやっているんだ。
ネコSE:あちゃー、バレてしまいましたか。一仕事終えたので、ちょっと息抜きに…。