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 米グーグルによると、2022年2月10日から同年5月11日の間に同社のメールサービス「Gmail」で送信したメールの18%、受信したメールの12%で通信経路が暗号化されていなかったという(図1)。つまり、やりとりされたメールの1割以上が盗聴のリスクにさらされていた。

図1●10通に1通以上のメールは通信経路が暗号化されていない
図1●10通に1通以上のメールは通信経路が暗号化されていない
米グーグルは、Gmailでやりとりされるメールの通信経路の暗号化の有無を公表している。それによると送受信とも1割以上のメールが、暗号化されていない通信経路を経由している。つまり盗聴されやすい状況になっている。グラフは、2022年2月10日から同年5月11日のデータを基に作成した。
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 なおここでの「通信経路が暗号化されていない」というのは、Gmailのサーバーとメールサーバー間で、安全な通信手法(プロトコル)が使われていないということである。例えば送信メールの場合は、Gmailのサーバーと送信先のメールサーバー間の通信のうち18%で安全なプロトコルが使われず、メールが暗号化されていなかった(図2)。

図2●Gmailのサーバーと送受信相手のサーバー間の経路に懸念
図2●Gmailのサーバーと送受信相手のサーバー間の経路に懸念
「通信経路が暗号化されていない」というのは、メールのやりとりの際に安全な通信手法(プロトコル)を使っていないということ。安全なプロトコルを使えば、メールクライアントとメールサーバー間、あるいはメールサーバー間のメールの送受信時に一時的に暗号化されるので盗聴などを防げる。
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 日本国内のほうが事態は深刻なようだ。インターネットイニシアティブ(IIJ)が自社のメールサービスで2020年10月に調査した結果によれば、送信メールの30.4%、受信メールの37.5%が経路を暗号化されていなかった。

標準では暗号化されない

 グーグルが指摘したのはメールサーバー間の通信経路のリスクだが、実際には他にも危ない通信経路がある。クライアントとサーバー間の通信経路だ(図3)。

図3●危ないのはメールサーバー間の通信経路
図3●危ないのはメールサーバー間の通信経路
メールクライアント(メールソフト)を使うメールシステムでは、メールサーバー同士およびメールサーバーとメールクライアント間の経路のいずれも暗号化されない可能性がある。Webメールの場合にはメールサーバーとWebブラウザー間はほとんど暗号化されるが、メールサーバー間には非暗号化経路が残る場合がある。
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 メールの方式には大きく分けてメールクライアント方式、Webメール方式の2種類がある。前者はクライアントに専用ソフト(メールクライアント)を用いる方式、後者はWebブラウザーをクライアントにする方式だ。いずれにおいても暗号化すべき箇所はクライアントとメールサーバー間、メールサーバーとメールサーバー間の2カ所だ。

 メールクライアント方式では、メールクライアントからメールサーバーへのメール送信や、メールサーバー同士の送受信にはSMTPというプロトコルが使われる。また、メールクライアントがメールサーバーからメールを受信する際にはPOPやIMAPといったプロトコルが使われる。

 これらはいずれも標準では暗号化の機能を備えていない。このため後述するような暗号化の仕組みを導入しないと、メールは経路上を暗号化されずに送られる。実際冒頭で書いたように、暗号化に対応していないメールサーバーが少なからず存在するために、非暗号化経路が残ることになる。

 Webメール方式も、メールクライアント方式と同様にメールサーバー間の通信にはSMTPを使う。このため暗号化されない通信経路が存在する可能性がある。

 ただしクライアントがWebブラウザーなので、Webの暗号化プロトコルであるHTTPSを標準で使用する。このため暗号化の仕組みを別途用意しなくても、クライアントとサーバー間の通信は暗号化される。