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 2021年から2022年にかけて、急速に「Web3」という言葉が関心を集めている。Webといえばネットワーク技術であり、本誌としても見過ごせない。Web3の正体を見極めるために、その技術的な側面を中心に解説しよう。

セマンティックWebとは異なる

 Web3という言葉自体はかなり前から使われてきた。Web技術の開発者であるティム・バーナーズ=リー氏が「Web 3.0」という言葉を使ったのは2006年。リー氏は「セマンティックWeb」の実現を目指していた。

 現状のWeb技術は文書をハイパーリンクでつなげている。文書構造に意味(セマンティクス)を持たせることで、文書ではなくデータとして取り扱えるようにすることを目指したものがセマンティックWebであり、それが実現できた状態を「Web 3.0」と呼んだ。

 一方ここに来て関心を集める「Web3」は、ブロックチェーン技術「Ethereum」の創設者の1人であるギャビン・ウッド氏が2014年に提唱した。Ethereumを含むブロックチェーンが備える特性を生かして、GAFAのようなプラットフォーマーへのデータの集中を覆せるという考え方を示した。

情報を自分の手に取り戻す

 Webの発展史に絡め、より具体的に説明しよう(図1-1)。初期のWeb(Web1)は利用者と情報の発信者が明確に分かれていた。技術的には静的なHTMLによる情報の発信である。情報は発信者から利用者への一方通行が基本だ。

図1-1●「Web3」が示すインターネットの変化
図1-1●「Web3」が示すインターネットの変化
Web3という言葉はインターネットにおけるユーザーの関わり方を世代で示している。シンプルな情報提供から、利用者が能動的に関わるように変わったのが「Web 2.0」だ。Web3では、利用者が情報を保有できるようになるといわれている。
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 それがWeb 2.0で大きく変わった。利用者も情報を発信するようになった。「ユーザー生成コンテンツ(UGC)」という言葉も生まれた。JavaScriptを利用した動的なHTMLを使って、リアルタイムで画像を編集したりイラストを作成したりできるようになった。

 Web3では利用者が情報を「所有」できるようにもなる。「Web2.0でも情報は自分が作ったのだから所有している」と考えるかもしれない。しかし、仮にSNSの事業者にアカウントを凍結されれば、自分が投稿した情報の編集や削除ができなくなる。事業者が不適切と判断すれば投稿が公開されないこともある。こうした情報の生殺与奪を利用者に取り戻すのがWeb3だというのだ。