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 ネットワークに関する書籍などでは、L3スイッチを「ルーティング機能を備えたスイッチングハブ」と説明することが多い。実際、L3スイッチはL2スイッチの機能とルーティング機能を併せ持つ機器だ(図1)。L2の通信単位であるフレームと、L3の通信単位であるパケット両方を処理できる。

図1●L3スイッチはL2とL3の両方に対応
図1●L3スイッチはL2とL3の両方に対応
L3スイッチはレイヤー2(L2)の通信単位であるフレームおよびレイヤー3(L3)の通信単位であるパケットの両方を処理する。
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 それなら両方の機能を備えるL3スイッチがあれば、ルーターを使わずにネットワークを構成できるように思える。だが話はそう単純ではない。ルーターとL3スイッチはいずれもパケットフォワーディングが可能だが、それぞれ得手不得手が異なるからだ。そこで今回は「L3スイッチだけでネットワークを構成」することが禁じ手である理由を解説する。

通信の処理方法に違い

 まずL3スイッチとルーターがそれぞれどのように通信を処理するのかを確認しよう(図2)。L3スイッチはASICという通信処理専用のハードウエア(集積回路)で通信を処理する。一方ルーターはNPUという回路で動作するソフトウエアで通信を処理する。

図2●L3スイッチはハード、ルーターはソフトで処理
図2●L3スイッチはハード、ルーターはソフトで処理
L3スイッチはASICというハードウエア(集積回路)で通信を処理する。一方ルーターはNPUで動作するソフトウエアで処理する。
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 L3スイッチに搭載されたASICは、スイッチングやルーティングなどの比較的単純な機能を実現するよう設計されている。ハードウエアで処理するため、ASICが対応している機能なら、ソフトウエアを使うルーターよりも高速で処理できる(図3左)。

図3●L3スイッチは複雑な処理が苦手
図3●L3スイッチは複雑な処理が苦手
L3スイッチでは、ASICが対応するパケットフォワーディングなどは高速で処理できる。一方NATやIPsecといった複雑な機能はASICで処理できないことが多いので管理用CPUに回す。だが管理用CPUは通信の処理には適していないので時間がかかる。
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 だが多くの場合、NATやIPsec、PPPoEといった複雑な機能にはASICは対応していない。こういった機能をL3スイッチで実現するには、管理用CPUを使用する(同右)。しかし管理用CPUは文字通り管理用なので、通信の処理には適していない場合や性能が低い場合が多い。加えてASICと管理用CPUをつなぐ配線の帯域も狭いため、通信に時間がかかる。

 また管理用CPUに負荷がかかるため、本来求められる管理機能に影響を及ぼして、設定画面の応答やログ出力が遅くなる場合がある。

 一方ルーターはソフトウエアで処理するので、複雑な機能にも柔軟に対応できる。