全3306文字
PR

 2020年から2021年にかけてサイバーセキュリティー界わいを騒がせた言葉の1つに「PPAP」がある。PPAPとはファイルを共有する手段の1つだ。暗号化ZIPファイルをメールで送付した後に、別のメールでパスワードを送付する(図1)。

図1●PPAPの概要
図1●PPAPの概要
PPAPはファイルを暗号化ZIPファイルにしてメールで送り、パスワードを別のメールで送るファイル共有手段。「暗号化ZIPファイルを誤送信しても、パスワードが分からなければ相手はファイルを復号できないので情報漏洩を防げる」という理屈から、誤送信対策として使われてきた。
[画像のクリックで拡大表示]

 今回はこのPPAPの問題点と、PPAPから脱却する方法を解説する。脱PPAPをきっかけに考えるべきデータガバナンスについても取り上げる。

官民で廃止進む

 PPAPは官公庁や企業で広く使われてきた。メールの誤送信による情報漏洩の防止と、通信経路上の盗聴防止に効果があると考えられたからだ。PPAPでは暗号化ZIPファイルとパスワードを別のメールで送信する。このため両方のメールを同じ宛先に誤送信しなければ情報漏洩にはつながらない。このことから誤送信対策になるとされた。

 また、添付ファイルが暗号化されているので、通信経路でメールを盗聴されても情報は漏洩しない。このため盗聴対策の効果もあるとされた。

 ところが2020年11月ごろから、PPAPを廃止する企業が増え始めた。デジタル改革相(当時)の平井 卓也氏が内閣府と内閣官房でPPAPを廃止すると発表したことがきっかけだ。2021年には日立製作所やインターネットイニシアティブなど、大手企業も廃止を発表した。

セキュリティーリスクを高める

 PPAPを廃止する企業が相次ぐのは、実際には意味がないと周知され始めたからだ。意味がない理由は3つある(図2)。1つ目はそもそも誤送信対策にならないためだ。通常は暗号化ZIPファイルを誤送信した場合には、パスワードメールも同じ宛先に送ってしまうだろう。「暗号化ZIPファイルの誤送信に気づいてパスワードメールの送信をやめる」といったことはまずあり得ない。

図2●PPAPがセキュリティー対策として意味がない理由
図2●PPAPがセキュリティー対策として意味がない理由
PPAPはセキュリティー対策として意味がない。むしろリスクを高める場合もある。PPAPでは暗号化ZIPファイルを使うので、ファイルの中にマルウエアが含まれていても検知できないためだ。
[画像のクリックで拡大表示]

 いわゆる「PPAPツール」を利用している場合にはなおさらだ。PPAPツールは、メールに添付ファイルがある場合には暗号化し、同じ宛先にパスワードメールを自動的に送信するからである。

 2つ目は盗聴対策にもならないためだ。通常、暗号化ZIPファイルとパスワードのメールは同じ経路で送られる。このため暗号化ZIPファイルを盗聴できる攻撃者は、パスワードも窃取できる可能性が高い。

 3つ目はマルウエアを検知できなくなるためだ。UTMなどマルウエアを検知する仕組みを導入していても、暗号化されていると検知できない場合がある。実際、近年猛威を振るっているマルウエア「Emotet」は、暗号化ZIPファイルに潜んで企業に侵入する場合がある。PPAPは無意味なだけでなく、むしろセキュリティーリスクを高める。