有線LANポートを搭載しないノートパソコンが増えている。スマートフォンを社内ネットワークにつながせる企業も増えている。無線LANは、企業ネットワークにとって不可欠な存在になった。
無線LANの最新規格であるWi-Fi 6▼は最大伝送速度▼が9.6Gビット/秒に達し、一般的な有線LANの1Gビット/秒を大きく超える(図1)。
しかし実際の環境では、有線LANを超えるような性能は出ない。規格の最大伝送速度を実現するには8チャネル▼(160MHz幅)と8ストリームが必須だが、オフィス環境では通常2チャネル(40MHz幅)以下で運用するからだ。アクセスポイント(AP)同士の干渉を防ぐためである。
またノートパソコンやスマホなどの端末のストリーム数は最大でも2である。40MHz幅および2ストリームの環境では、Wi-Fi 6でも最大伝送速度は573Mビット/秒になる。
高いスループットが魅力
それでもWi-Fi 6は2019年後半に対応製品が相次いで登場し、多くの注目を集めている。その理由は、各ユーザーのスループット(伝送速度の実測値)が高いからだ。
もともとWi-Fi 6は規格の立ち上げ当時から、高密度環境において平均スループットを4倍にすることを目標にしていた。そのため、同時通信や高密度対応に関する機能が強化されている(図2)。また、省電力化や通信距離延長モードによって、IoTにも活用しやすい。
同時通信では、同時に通信できる端末数が従来のIEEE 802.11acの4台から8台に倍増した。さらに802.11acでは、同時通信はダウンリンク(APから端末)のみの対応でオプション扱いだったがWi-Fi 6では必須となり、アップリンク(端末からAP)もオプションで対応するようになった。
高密度対応では、信号変調方式にOFDMA▼を採用し1つのチャネルを複数のユーザーで分割して利用できるようになった。
こうした同時通信と高密度対応によって、オフィス環境でスループットは向上されるとみられる。
なお、Wi-Fi 6とIEEE 802.11axは同じ規格を指す。技術規格の標準化団体IEEEが規格名を802.11axと定めたが、無線LANの普及や相互接続性を認定する業界団体Wi-Fi Allianceがユーザーに分かりやすくするためにWi-Fi 6と名付け直した。
IEEE 802.11axのこと。「6」はWi-Fiの第6世代を示す。第5世代に対応するIEEE 802.11acはWi-Fi 5と呼ぶ。
規格の最大伝送速度は理論上の数値(理論値)であり、実環境ではこの速度は出ない。本特集では「最大伝送速度」とした場合、いずれも理論値を指す。一方、実環境で計測した伝送速度は「スループット」と呼んで区別する。
複数のチャネルを束ねて通信するチャネルボンディングを指す。
Orthogonal Frequency Division Multiple Accessの略。直交周波数分割多重接続と訳す。