Professor’s Eye
目次
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フィジカルコンピュテーションとロボット工学:情報処理はどこで始まりどこに行くのか
現代のロボットや知能機械システムには必ず電子回路やコンピュータが搭載され、それによって自動制御されている。筆者が住む英国では今日も多くの機械式のサーモスタットや電気湯沸かしポットを見かけるが、それらも日本ではほぼ全てマイコン制御となっている。このように現代の自動制御システムでは物理状態を電気信号に…
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スタートアップの「夢」と「嘘」
“Fake it till you make it”(できるまで、できたふりをしろ)というのはシリコンバレーの起業家のメンタリティを表すときによく使われる言葉である。イノベーションを起こす可能性のある技術が実際に完成するかどうかはやってみるまでわからない。一方、投資家としては、実現可能性も投資の可…
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(続)時間と空間の高い繰り返し精度を活用してこそ、ロボティクスの医療応用は意味がある
筆者は以前のコラムで、ロボットの高い時間精度が医療における運動機能回復手技の発展に貢献できる可能性について述べた。ロボット技術のもう1つの特長である高い空間精度の複雑な外科手術への適用は既になされており、ある程度の市場も確立されている。この分野の研究開発および実用の現状を踏まえ、再びロボティクスの…
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ロボット開発プロジェクトが失敗する理論的理由と絶対に失敗させない方法
ロボットの設計開発にはやって良いことと悪いことがある。これをあまり考えずに思いつきで設計開発を行うと無駄な労力や失望に見舞われることになる。特にロボット作りを夢見て研究室に入ってきた学生などがとにかくむやみにロボットを作り始め、夢破れる姿を無数に見てきた。かく言う筆者も学生時代には多くの失敗を重ね…
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ハードウエア研究の今後
2021年7月23日、米Alphabet社(米グーグルの親会社である持ち株会社)は産業用ロボット向けソフトウエアの研究開発を主な業務とする新会社、米Intrinsic社の設立を発表した。Alphabet社のグループ会社で長期プロジェクトを担当するX Development社(旧社名Google X…
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コロニアル・パイプライン社に対するサイバー攻撃と、暗号化制御
2021年5月、米国東部で消費される燃料の約半分を供給している米Colonial Pipeline社がハッカー集団ダークサイドからランサムウエア(身代金要求型ウイルス)によるサイバー攻撃を受け、操業を停止した。この事件が報じられた当初は備蓄も十分なため、操業停止が長引けばゆっくりと米消費者や経済に…
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身体性知能は機械学習を超えられるか
身体性(Embodiment)という概念は古くから哲学において研究されてきた。起源をたどれば心身二元論などに行きつき、身体と心や知能がどのような関係にあるのかという問題は古くから語られ続けている。
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コロナ禍の人-ロボットインタラクション研究
人と人が直接対面するのが難しくなったのに伴い、代替手段として脚光を浴びた分野の1つにロボットがある。自律移動機能を活用した自動除菌・消毒や自動配送、テレプレゼンスロボットを応用した遠隔診断、さらにはロボットとのコミュニケーションを通じた心理的なサポートなど、コロナ禍前から開発されてきた技術を転用し…
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米国大統領選挙と大学運営への影響
バイデン新大統領の就任式が1週間後に迫る時点で本稿を執筆している。筆者が米国在住になってから最初の大統領選は2008年、民主党オバマ大統領の一期目就任時であった。そこから何回か選挙が行われたが、今回の大統領選挙ほど多くの社会的混乱が生じたことはなかった。
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ロボット工学最新動向を知るための学術論文の読み方、選び方
ハードウエアを扱うロボット技術は時に長期的展望に基づいたロングスパンの研究開発が必要となるが、10~20年先まで技術や研究のトレンドや進展を見通すのは簡単ではない。新しい技術や研究トレンドの大きな流れの多くは大学や研究機関で起こるものの、世界中の研究機関の活動や成果をいち早く見出すためには一次情報…
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コロナ禍後のシリコンバレーはどうなるのか
新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、筆者が住むシリコンバレーを含むベイエリアでは米国で最も早く2020年3月16日に自宅待機(shelter-in-place)命令が出され、翌17日から施行された。カリフォルニア州、ニューヨーク州が同様の命令を出す3~4日前である。
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コロナで浮き彫りになる米国教育の歪み
2020年初頭からの新型コロナウイルス(COVID-19)の世界的な感染拡大(コロナ禍)によって我々の生活様式は大きく変わってしまった。本稿執筆時点(2020年7月中旬)において、筆者が居住するジョージア州を含む米国南部および西海岸では、1日あたりの新規感染者数が過去最高を更新する日々が続いている…
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生物に学ぶロボットナビゲーション技術の展望
ナビゲーション技術はロボット工学の研究が始まった当初から基幹技術として研究され続けている。昨今は自動運転やドローンの自律制御などのアプリケーションとして利用されるようになり、企業の研究・開発者まで巻き込んだ開発体制が確立され、ついにロボットナビゲーション技術が完成し、研究に終止符が打たれる日が来る…
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米国の大学「入試」と高校教育
私事で恐縮だが、娘が昨年高校に進学した関係で最近「米国の大学への入り方」をいろいろ調べているところである。そこへ日本の大学入学共通テストを巡る混乱も耳に入ってきて、日米の大学入学者選考とその前段階としての高校教育に対する考え方の違いに驚くことが多くなった。
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大学での基礎研究の市場性と実用化、特許取得、応用研究と実用化について
大学での基礎研究の成果を知的財産(IP)として実用化し、産業界に貢献することは、特に工学分野では高く期待されている。しかしながら日々の研究活動で生み出される新しいアイデアが製品として広く世に出ることは決して多くない。
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最強ロボット開発チームの作り方とは
筆者が教鞭を執っている英University of Cambridge工学部では学部2年生全員にロボットの設計・製作実習が必修科目として義務付けられている。工学部自体は機械、電気、土木、情報、経営工学などの7学科から構成されており、ほとんどの学生はあまりロボット工学とは関わりのない専門分野に進むこ…
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パーソナルアシスタントロボット、普及への課題
数年前、パーソナルアシスタントロボットがブームのようになり、ベンチャー・大手から新製品が多数発表されて話題になった。しかし、そのほとんどが十分な需要を掘り起こせず、最近は撤退が相次いでいる。
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英国における農業ロボット研究の動向
この原稿を書いている時点で英国は2019年3月末に予定さているEU離脱(Brexit)に向けた混乱の真っ只中にいる。この方針が決まって以降の2年間に筆者はロボット工学の現状と労働者不足問題への対応について多くの問い合わせを受けた。農業や食品加工関連事業に従事するEUからの季節労働者は英国内に7万人…
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出展者から見たCES、学術イベントとビジネスショーの違い
CESは毎年正月明けに米国ラスベガスで開催される巨大展示会で、2018年は18万人を超える参加者があったという。もともとは消費者向けの電化製品が出展の中心だったが、近年では自動車やロボティクス、IoTなど様々な技術が出展されている。
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ロボティクス研究に必要な専門教育とは何か
以前のコラム(2015年9月号)では米国での研究資金獲得について述べた。獲得した資金を元に研究を担うのは主に博士課程の学生である(生命科学分野ではポスドクが主に研究を担う。工学系では博士課程学生がメインである)。今回は米国の博士課程について述べたい。