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本記事はロボットとAI技術の専門誌『日経Robotics』のデジタル版です
本記事はロボットとAI技術の専門誌『日経Robotics』のデジタル版です

 現代のロボットや知能機械システムには必ず電子回路やコンピュータが搭載され、それによって自動制御されている。筆者が住む英国では今日も多くの機械式のサーモスタットや電気湯沸かしポットを見かけるが、それらも日本ではほぼ全てマイコン制御となっている。このように現代の自動制御システムでは物理状態を電気信号に変換して情報処理をするのが常識であるが、最新のロボット工学や機械学習の研究者の中にはそのような常識を覆して、電気信号に依存しない物理的な情報処理システムの理論と技術を確立しようと試みる人々がいる。

 そのような研究の発端になるのが自然界に存在する多種多様の情報処理メカニズムで、生物界はそのような例で満ちあふれている。様々な植物が根やツルを伸ばして目的地に到達する様子、粘菌が迷路内の餌を得るために最適な経路を見つけるプロセス、クモが巣を作るアルゴリズム、有機分子構造に起因する遺伝情報、そしてホルモンや生体状態に起因する動物の行動決定メカニズム等々。これらの現象は神経細胞の電気信号による情報処理だけでは説明がつかない他の情報処理、計算プロセスに従っていると考えて良いであろう。