全6296文字
本記事はロボットとAI技術の専門誌『日経Robotics』のデジタル版です
本記事はロボットとAI技術の専門誌『日経Robotics』のデジタル版です

 シミュレーションまたはコンピュータモデリングはシミュレーション自体の技術の発展と計算性能や性能コスト比の指数的な改善によって広い分野で使われるようになっている。

 シミュレーションは対象問題の原理・原則、公式が分かっているなら、データに基づかなくても正確にシミュレーションできる。化学分野の言葉を借りれば“ab initio”(第一原理のみに従って)としてデータや経験を使わずとも複雑な現象を非常に正確にシミュレーションできる。

 一方でシミュレーションが達成できる精度と必要な計算量は改善の余地が大きい。精度と計算量はトレードオフの関係にあり、高精度のシミュレーションを実現する場合には計算量が問題となる。扱う要素数(物体数、電子数など)が増えるにつれ、計算量は急激に増加する場合がある。また、デジタル計算機では連続量は扱えないため、時間や空間を量子化する必要がある。この場合も精度の高いシミュレーションのためには高い分解能が必要となるが、計算量は増加する。

著者の岡野原大輔氏
著者の岡野原大輔氏

 こうした問題を解決する手法として、AIを使ってシミュレーションを高速化したり高精度化することができるようになっている。

 今回は剛体物理シミュレーション、量子化学シミュレーション、コンピュータレンダリング(光学系のシミュレーション)においてAIがシミュレーションでどのように使われているのかについて紹介していく。

剛体物理シミュレーション

 始めに質量を持った複数の剛体が相互作用しながら将来どのような軌道を描くのかをシミュレーションする問題を考えよう。ここではニュートン力学やそれを一般化したハミルトン力学で記述できる古典力学を扱う。

この記事は日経Robotics購読者限定です