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自動運転車やロボットなど安全が重要視されるシステムに、ディープラーニングなどの機械学習・AI(人工知能)技術を適用する際、その品質をどのように担保すべきか─。
ディープラーニング技術がブームのようになって以来、常に耳目を集めてきたこの課題について正面から取り組み、対処しようとする動きが国内で出現した。
研究会やコンソーシアムなどが相次いで発足したのである(表1)。
JAXAと自工会がタッグ
自動運転などへの応用を見据え、まずは自動車技術の業界団体である日本自動車工業会(自工会)が動いた。セーフティクリティカル分野での安全確保の技術で日本トップレベルの知見を持つ組織であるJAXA(宇宙航空研究開発機構)と組んだことを2018年3月に発表した。
JAXAは一般にはソフトウエアやAIのイメージは薄いかもしれないが、JAXA 旧・情報・計算工学(JEDI)センター(現在の「第三研究ユニット」)において、ソフトウエア工学やソフトウエア検証技術などに積極的に取り組んできている。日本でのセーフティクリティカル向けソフトウエア技術のコミュニティにおいてリーダー的役割を果たしてきた組織だ注1)。
ディープラーニング(深層学習)技術についても既に宇宙機への応用を踏まえ、その安全確保のアプローチについて検討を始めている。宇宙機向けで培った安全確保のための手法は、機械学習を含むシステムに対しても適用できるとJAXAは考える。
JAXAは安全分野の知見を生かし、従来、日本の自動車メーカーとシステムの安全について個別に共同研究をしていたが、自動運転にディープラーニング技術などを応用する機運が高まってきたこともあり、自工会を通して自動車業界全体で機械学習の品質確保についてJAXA側と共同で取り組むこととなった。両者は協業から1年後となる2019年3月ころまでに、協業で得られた知見をまとめる予定である。
機械学習をノウハウから工学へ
アカデミックの場でも動きが出てきた。ソフトウエアの基礎理論やソフトウエア工学を扱う学会「日本ソフトウェア科学会(JSSST)」において2018年4月、機械学習システムを工学として扱えるようにすることをテーマとした研究会「機械学習工学研究会(MLSE:machine learning systems engineering、メルシー)」が発足した。従来のコードベースのソフトウエアの品質や開発手法などを扱うソフトウエア工学と、機械学習との接点を探るのがMLSEの目指すところである。