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本記事はロボットとAI技術の専門誌『日経Robotics』のデジタル版です
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 ロボット掃除機の世界的なメーカーである英国創業のDyson社注1)。同社が英国の名門大、Imperial College London(ICL)内に設立した研究所「Dyson Robotics Laboratory(ロボット研究所)」が、visual SLAMの領域で斬新な成果を出した。

 ディープラーニング技術と既存の伝統的なSLAM技術、それぞれの利点を生かして両者を統合。特徴点ベースではない密(dense)な距離画像を高精度に復元しながらも、ロボットで使えるようなリアルタイムのフレーム速度を達成した新手法を開発したのだ1)

注1)Dyson社は元々は英国で創業したが、現在はシンガポールに本社を移している。

 ディープニューラルネットが学習して獲得した3次元空間についての事前知識を生かして大まかな距離画像を復元しつつ、運動視差によるSLAM的な最適化を通じて、フレーム間でこれらを詳細化していくものである。

 単眼カメラのみを用いながら、カメラの(自己位置)軌道とその空間の統合された3次元地図を出力できる(図1)。通常のvSLAM技術が苦手とする回転動作にも強いため、ハンドヘルドの状態で部屋内などを単眼カメラで撮影すると、その部屋内の3次元構造が次々と出来上がる。

図1 ディープラーニング技術による距離推定とSLAM技術を融合
図1 ディープラーニング技術による距離推定とSLAM技術を融合
Imperial College London(ICL)のDyson Robotics Laboratory(ロボット研究所)の技術による3次元復元結果。(写真:ICLのJan Czarnowski氏、Tristan Laidlow氏、Ronald Clark氏、Andrew J. Davison氏の論文(参考文献1)より)
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 この技術を開発したのは、現代の単眼vSLAMの始祖とも言える同分野の重鎮、Andrew Davison氏らの研究グループだ。

 同氏は2000年代前半に世界で最初のリアルタイム単眼vSLAM「MonoSLAM」を考案。それ以後も「DTAM」や「KinectFusion」など、vSLAMの領域で革新的な成果を次々と発表し、vSLAMの技術を世界的に牽引してきた人物だ。ロボット分野でSLAM技術に関わる技術者であれば、知らぬ者はいない人物だろう。