全6580文字
PR
本記事はロボットとAI技術の専門誌『日経Robotics』のデジタル版です
本記事はロボットとAI技術の専門誌『日経Robotics』のデジタル版です

 画像や音声の認識、自然言語処理やロボットの制御など、様々な用途で活躍するディープニューラルネットワーク(DNN)。その動作原理は、名前が示唆する通り脳の神経細胞(ニューロン)に由来する。ただし、DNNの基本的なユニットの処理は1940年代に提案された単純なモデルをほぼ継承しており、脳にある実際のニューロンの働きとはかなりの乖離がある。

 そこで、より脳に近い動作を工学的に再現して、DNNとは異なる特徴の実現を目指すのが、スパイキングニューラルネットワーク(SNN)と呼ばれる技術である(図1)。脳の処理は非常にエネルギー消費が少ないことで知られており、DNNと比べて桁違いに低電力の演算を達成する可能性がある。また、ノイズの多い環境下で少ないサンプルから効率的にオンライン学習するといった、生物が備える特徴の実現も期待できる。

図1 DNNと異なる特性を持つSNN
図1 DNNと異なる特性を持つSNN
多くの分野で実用化が進むディープニューラルネットワーク(DNN)と、脳のニューロンの動作を模倣したスパイキングニューラルネットワークの特徴を比較した。
[画像のクリックで拡大表示]

 こうした利点があることから、ハードウエアの分野では、既存のコンピュータの限界を超える技術としてSNN専用チップが注目を集めてきた1)。「ニューロモーフィックチップ」とも呼ばれ、2014年に登場した米IBM社の「TrueNorth」や、2017年公表の米Intel社の「Loihi」2)などが代表例である。既に、これらのチップを用いてSNNならではの用途を探る研究も出始めている。Loihiの上では、生物の脳に倣ってSLAMの機能(arxiv:1903.02504)や嗅覚の能力(arxiv:1906.07067)を実装した例がある注1)