全6573文字
PR
本記事はロボットとAI技術の専門誌『日経Robotics』のデジタル版です
本記事はロボットとAI技術の専門誌『日経Robotics』のデジタル版です

 ディープニューラルネットワーク(DNN)の高速処理が可能な半導体、いわゆるAIチップの開発で頭角を表してきたベンチャー企業がある。東京工業大学 准教授の中原啓貴氏が代表取締役として率いるトウキョウアーチザンインテリジェンス(TAI)だ。画像からの物体検出や領域分割(セマンティックセグメンテーション)、人物の姿勢推定といった画像認識機能を提供するCNN向けの回路の開発を進めている。

 同社が狙うのは、いわゆるエッジ側の機器で推論を実行する半導体である。中でも、個別の用途に特化した専用チップの領域に目をつけた。同社のような小さい企業でも勝機があると見たからである注1)

注1)同社は、半導体の設計・開発を手掛けるシンコムのエッジ向けAIシステムの開発グループを分社化し、中原氏がトップに就く形で2020年に発足した。2021年末現在の社員数は13人で、2022年には20人体制になるという。

 市場拡大への期待が大きいAIチップは、世界中の企業が参入し競争が激化している。クラウド側では、GPU大手の米NVIDIA社や自社サービス向けに「TPU」を開発する米グーグルなど大企業が優位である。エッジ側でも、スマートフォン向けや自動車といった大量に出荷される製品用のチップは、ベンチャー企業にはハードルが高い。これらに対して特定用途専用のチップであれば、少量でも高価にできる上、技術力での差異化を計りやすいと考えた(図1)。