全6511文字
PR
本記事はロボットとAI技術の専門誌『日経Robotics』のデジタル版です
本記事はロボットとAI技術の専門誌『日経Robotics』のデジタル版です

 様々な物理現象のシミュレーションを、ディープニューラルネット(DNN)で代替する技術が注目を集めている。現象を記述した方程式に従う数値計算の代わりに、データで学習させたDNNで計算結果を予測する方法だ。この技術を手掛ける1社が、ベンチャー企業の科学計算総合研究所(RICOS)である。同社は2022年4月に、開発した技術を用いた初の製品「RICOS Lightning」のサービスをクラウド上で開始した。流体の流速・圧力分布の定常状態・時間変化を予測可能で、自動車の空力シミュレーションなどに利用できる。

 最大の売り物は有限要素解析(FEA)などに基づく既存の物理シミュレーションと比べて、精度をほとんど落とさずに高速に計算できることだ。従来は数日を要した計算を数分に短縮できた事例もあるという。高速なシミュレーションによって、設計の修正や様々な設計案の比較を容易にし、製品開発のサイクルを回しやすくすることが同社の狙いである。

 同社の技術の応用先は、流体のシミュレーションに限らない。実際、熱解析や熱流体解析などを対象にしたサービスを今後提供する予定である。ほかにも、応力解析など微分方程式で表される多くの現象に適用可能と見られる。

 DNNを使うことで、シミュレーションよりも現実に近いデータを予測できる可能性もある。現在はDNNの学習用データとしてFEAによるシミュレーションの結果を使っているが、それらは必ずしも現実の値と一致するとは限らないためである。DNNを現実の実験データで学習させれば、より実情に即した予測を実現できるかもしれない。