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本記事はロボットとAI技術の専門誌『日経Robotics』のデジタル版です
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 米グーグルから、注目に値する“すごい”ロボット技術が登場した。

 同社が得意とするロボット向け機械学習技術の領域での成果だが、これまで漸進的な進化が続いてきた強化学習や模倣学習といった範疇の技術ではない。それら旧来的な枠組みにとどまるものではなく、家庭やオフィスで使える汎用的なサービスロボット実現に向け、大きな前進となる技術である。細かいミクロな要素技術というよりも、こうした汎用的ロボットを実現するためのマクロなソフトウエアアーキテクチャの面で、今後の革新への萌芽となる成果を今回、出した(図1)。ロボット技術者であれば、決して無視できない成果である。

図1 グーグル社内でテスト中の移動マニピュレータ型ロボット
図1 グーグル社内でテスト中の移動マニピュレータ型ロボット
(写真:グーグル)
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 開発したのは、グーグルのロボット研究部門、および「Everyday Robots」という組織だ。Everyday Robotsは米Alphabet社(グーグルの親会社)傘下の基礎研究組織X Development社で発足したプロジェクトで、グーグルが長年手掛けてきたロボット向け機械学習技術などを実社会で応用すべく、ハードウエアとソフトウエアの両面で模索を続けてきた。2021年11月には、独立したドメインのWebサイトを立ち上げて「プロジェクト」という位置付けから離脱。スピンアウトに向け、100台以上の試作ロボットをグーグルの複数のキャンパスに展開し、オフィス内や社員食堂などの実環境でテストを開始していた。

 X Development社のロボット系プロジェクトからは、産業用ロボット向けAIを手掛ける米Intrinsic社が2021年に先にスピンアウトし、独立した事業会社として既に活動を開始しているが1)、Everyday Robotsはまだそこまでのフェーズに達した訳ではなく、現在もX Development社内の組織という位置付け。その活動はこれまでベールに包まれていた。強化学習技術などを使い、オフィス内で出るゴミの分別作業などに移動マニピュレータ型ロボットを適用しているといった情報は出ていたが、技術詳細は全く明らかになっていなかった。

 強化学習技術や模倣学習技術はディープラーニングの勃興以降、理論面でも性能面でも進化を遂げたとはいえ、それらだけでは家庭内やオフィス内などで必要な複雑なタスクをこなすには不十分。そうした中、なぜX社はEveryday Robotsを研究所内プロジェクトというフェーズから、150人近いスタッフを抱える、より大きな組織に昇格させたのか。その根拠は謎に包まれていたが、今回、Everyday Robotsとグーグルが発表した技術が、そうした決断を後押しする1つの根拠となったことがうかがえる。

 グーグルが今回の技術の着想を得て、具体的な開発に着手したのが2021年1月ころ。その後、同年11月ころまでには技術の効果を実証できるような成果がまとまってきた。このタイミングは、まさにX社がEveryday Robotsの昇格を宣言したタイミングと一致する。技術としてはまだ初期フェーズであり、粗削りな面は残っているが、今後のスケール性や継続的な発展が一定期間、見込まれる有望技術といえるだろう。このスケール性というのは、ロボット研究でよくある「中長期の恣意的な希望的観測」などではなく、明確な根拠のあるスケール性のことである(詳細は後述)。

 さて、グーグルとEveryday Robotsは一体、何を成し遂げたのか。