苦労して多額の費用をかけて導入したERP(統合基幹業務システム)を活用できていない。こうした過去の反省を生かして、次回のERP導入の成功を指南する文書が登場した。
文書の名称は「日本企業のためのERP導入の羅針盤~ニッポンのERPを再定義する~」。130ページに及び、7月11日からSAPのERPのユーザー会であるジャパンSAPユーザーグループ(JSUG)のWebページで無償で公開している。
「ERPを本来あるべき姿で導入するための指針をまとめたもの」(作成したメンバーの1人であるSAPジャパンの神沢正デジタルコアクラウド事業本部長)との位置づけだ。「SAP製品の導入を前提にしている部分もあるが、他社のERP導入の際にも役立つ」と神沢本部長は話す。
JSUGとSAPジャパンが中心となって2018年に設立した「ニッポンのERP再定義委員会」が作成した。委員会は、JSUGの前会長を務めた鈴鹿靖史 日本航空常勤監査役やSAPジャパンの福田譲社長のほか、ニチレイや大和ハウス工業、住友化学などのユーザー企業や富士通やクニエなどのパートナー企業で、SAP導入に関わった経験を持つ13人で構成している。
知識不足が無駄なアドオンを生む
文書ではERP導入の本来あるべき姿として、「業務を標準化し、カスタマイズは極力行わず、極力標準機能で導入すべきもの」と定義。一方でこれまでのERP導入について「業務をシステムに合わせ切れずアドオンの山を築き、データの活用もままならない状況に陥っている」と分析。こうした状況が導入時のまま数十年間使い続ける「塩漬けERP」を生んでいるとしている。
文書は過去のERP導入の課題・問題点の分析や国内外の導入事例の研究、そしてERP導入のポイントなどで構成する。
導入のポイントをまとめた章では、ERP導入の目的、ERP導入プロジェクトの進め方、ERP導入の体制、ERP導入後の活用の4つの項目に分けて、詳細を解説している(図1)。
目的では過去のERP導入プロジェクトについて「ERP導入自体が目的になっていた」と分析。次回のERP導入は「経営や業務を進化させるプロジェクトにすべき」と提言し、経営の高度化、グローバル化を改めて目指すとしている。
導入プロジェクトの進め方では、前回のERP導入時の課題の1つとして製品への知識不足を挙げ、製品知識は優先度の高い検討事項であると説明している。製品知識の不足は無駄なアドオンソフトの開発につながるとの考えだ。
今回の文書は2000社とも言われる「SAP ERP」の導入企業が、SAP ERPの標準サポート期限が切れる2025年までに、次期版のERPである「S/4HANA」に移行することを念頭に作成されている。