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 相手の要求に見当をつけながらも、楠は問い返した。

「とおっしゃいますと?」

「ま、体制は御社がお考えになることですがね。例えば、もっと単価に見合うメンバーと替えていただくとか」

 楠が予想した通りのリクエストだ。しかし、この場での要求の仕方はパワハラに近いと、楠は思った。

トラブルの要因

 開発プロジェクトには多くのステークホルダーがいます。設計会議や各種セッションにも様々な人が参加するので、対立やあつれきが発生することがあります。全くの誤解や知識不足・情報不足を除けば、対立の要因には大きく2つあるのではないでしょうか。

 1つは価値観や立場の違いです。この例で言えば、ユーザー部門の大友課長は、「なるべく利用部門の手間がかからない形で設計・開発を進めてほしい」と思っているようです。だから、「推定できることをいちいち質問しないでくれ」といった発言が出てきます。

 一方、開発チームの伊東PLには、「確実に仕様を定義して手戻りを防ぎたい」という意図があります。だから、「たぶんこうだろう」と思っても、念のために質問して確認するという行動に出ることになります。

 楠PMには、仕様定義をうまくいかせることの他、顧客との関係を良好に維持して、余計な追加コストを出さずにプロジェクトを進める責任があります。だから、伊藤さんの意図を説明しようとしたり、要員についての不適切な要望を排除しようとしたりするのです。

 もう1つの要因はもっとシンプルで原始的な「相性」です。人と人の間の「好き嫌い」「合う合わない」の問題が絡んできて、トラブルに発展してしまいます。

 2人の相性に端を発していたとしても、力関係がアンバランスな中で対立がこじれると「パワーハラスメント」の領域に入って職務環境が悪化してしまいます(図1)。そうなると、関係する両社に職場環境の改善の責任が生じます。決して当事者同士の問題ではないことは、あらゆるハラスメントに共通します。

図1●アンバランスな力関係で対立がこじれると、ハラスメントの問題に発展する
図1●アンバランスな力関係で対立がこじれると、ハラスメントの問題に発展する
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 改善要望や業務上の要求にとどまっていれば、通常業務の範囲内といえますが、「精神的な攻撃」「人間関係の切り離し」「過大・過小な要求」「個の侵害」といった、厚生労働省が示すパワハラの類型を構成してしまう状態になると大きな問題です(表1)。

表1●職場のパワーハラスメントの6類型
(出所:厚生労働省「職場のパワーハラスメントの予防・解決に向けた提言」)
表1●職場のパワーハラスメントの6類型
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 そして、プロジェクトでは、多くの人、多くの組織、多くの会社が絡むので、職場内の人間関係の問題よりも解決が難しくなります。