複数の企業が保持するデータを共有し、イノベーションを促進する動きが加速しそうだ。国内では業種・業界ごとにデータプラットフォームの構築が官民で進んでいる。データプラットフォームを活用する際に必要な要素を説明する。
本連載では、データ基盤の設計パターンやデータ基盤を活用する際の体制づくりを中心に解説してきました。今回は、データ基盤の未来像を取り上げます。
最近、政府機関や先進企業が先導して「データプラットフォーム」を構築する動きがあります。特定領域のデータをデータプラットフォームに集約し、外部から利用してもらうためです。企業が外部データを活用したデジタル化に取り組む場合は、こうしたデータプラットフォームが有力な協調相手になるでしょう。
ここでは、今後普及が見込まれるデータプラットフォームの例を挙げ、データプラットフォームを活用するためのデータ基盤を説明します。
プラットフォーム化するデータ基盤
データプラットフォームを説明する際、避けては通れないのがGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン・ドット・コム)の存在です。GAFAに代表される先進企業は、競争力のあるサービスで膨大なデータを収集し、データを独占することでさらに競争を優位に進めようとしています。このようにデータを自ら蓄積し、データプラットフォームを構築している企業を「プラットフォーマー」と呼びます。プラットフォーマーは強い影響力を持ち、日本を含む世界の様々な市場を次々と独占しようとしています。
一方、日本国内ではデータ基盤を「協調領域」と「競争領域」に分け、協調領域のデータをデータプラットフォームで共有し、イノベーションを促進するといった動きが盛んになっています。1社だけがデータを保持するのではなく、共有できるデータは企業横断で共有し、データの利活用によって生まれるサービスで競争しようというわけです。既にいくつかの業種や業界でデータプラットフォームが構築されつつあります。なかには、サービスを開始しているものもあります。
最たる例は、政府が構築するデータプラットフォームです(表1)。政府はいくつかのデータ領域を定めています。そして、それぞれを担当する研究機関が中心となってデータプラットフォームを構築しています。
例えば農業分野では、国立研究開発法人の農業・食品産業技術総合研究機構(以下、農研機構)が「農業データ連携基盤(通称、WAGRI)」というデータプラットフォームを構築しました。2019年4月に運用を開始しています。WAGRIは、気象や地図、土壌、市況情報といったパブリックデータを収集し、使いやすく整理したものです。WAGRIを利用できるのは、政府機関だけではありません。民間企業でもWAGRIにデータを提供したり、データを利用したりできます。
防災分野では、防災科学技術研究所が「SIP4D(Shared Information Platform for Disaster Management)」というデータプラットフォームを構築しています。防災に関わる気象や災害、道路の通行規制といったパブリックデータを一元的に集約し、流通させています。防災データは、データフォーマットが統一されておらず、そのままの形では活用が難しいのが現状です。そこで、SIP4Dではデータを手軽に活用できるように集約・整形した上で提供しているのです。SIP4Dのデータは官公庁や自治体のシステムと相互共有しており、災害対策の現場で利用されています。企業が災害時業務や危機管理にこれらの防災データを利用することも可能です。
ここに挙げたのは農業分野と防災分野ですが、他の分野でもデータプラットフォームを構築する事例が増えていくでしょう。政府には、民間企業が協調領域であるパブリックデータを活用し、デジタル化を推進したり、イノベーションを促進したりできる環境を整えるといった狙いがあるからです。つまり、パブリックデータを有効活用できる業界は、公的なデータを蓄積したデータプラットフォームを活用できるかどうかがデジタル化の成果に影響すると言えます。
政府がデータプラットフォームの構築に取り組む一方で、民間企業にもデータプラットフォームを構築する動きがあります。例えばヤフーが運営するデータプラットフォームの「Data Forest」です。これは、ヤフーが収集しているデータと、参加企業が提供するデータを相互利用できるようにするデータプラットフォームです。多くのデータが集まるエコシステムを目指し、2019年10月に開始予定です。
ここまで取り上げたデータプラットフォームの多くは、蓄積されたデータを利用する代わりに、自社で保有しているデータをデータプラットフォームに提供することが求められます。今後、様々な業界で有力なデータプラットフォームが登場するでしょう。今後、システム開発はいくつかのデータプラットフォームと自社が保有するデータをマッシュアップし、サービスやアプリケーションを作るといったように変わっていくと思われます。