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 前回に引き続き、ロジカルシンキングに基づく「論理構造」を持つ資料になぜ説得力が生まれるのかについて説明を進めていく。論理構造とは、結論を根拠によって支える構造を作ることである。今回は、論理構造においてどういう根拠付けになっていれば納得感を持ってもらえるのかについて解説する。

 ロジカルシンキングの解説書の多くは、根拠付けには「演繹」と「帰納」の2種類あるとしている。筆者はもう1つ「アブダクション」を加えた3種類で考えることをお勧めする。アブダクションを帰納の一種と捉える考え方もあるが、アブダクションこそが納得感を生み出すために重要な働きをするので、分けて考えたほうが効果的に利用できる。以下で3つの根拠付けの違いを説明しよう。

 演繹とは、事実とそれらに関する規則を使って結論を導き出す根拠付けだ。前回使った案件管理システムのトラブルの事例に関連して、演繹的に結論を導く文例を示す。

 案件登録と案件クローズの処理は、案件テーブルの更新を行っている。案件テーブルの更新処理が遅くなっているので、案件登録と案件クローズの処理応答は悪化するはずだ。

 この例文の論理構造は図1のようになる。「案件登録と案件クローズの処理は案件テーブルのデータ更新を行っている」という事実と「案件テーブルの更新処理が遅くなっている」という事実から「案件登録と案件クローズの処理応答は悪化するはすだ」という結論を導いている。

図1●演繹による根拠付け
図1●演繹による根拠付け
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 規則がないと思ったかもしれないが、ここでは「部分処理が遅くなるとそれを含む全体処理も遅くなる」という規則が使われている。当たり前のことなので省略されているのだ。

 演繹による根拠付けには非常に強力な性質がある。それは、事実と規則が正しければ、結論は必ず正しいというところである。この例でも、処理間の依存性などの可能性は残るが、そうした例外ケースでなければこの結論は当然正しい。

 次に、帰納による根拠付けについて説明する。多くのロジカルシンキングの解説書では、次のように説明されている。「帰納とは、事実から共通の要素を見つけ出しそれを一般化して結論を導く根拠付けである」。次の例文の根拠付けは、帰納になる。図2にこの例文の構造を示す。

図2●帰納(実はアブダクション)による根拠付け
図2●帰納(実はアブダクション)による根拠付け
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 案件登録と案件クローズの処理応答が悪くなっている。どちらも案件テーブルのデータ更新をしているから、案件テーブルの更新処理が遅くなっているのだろう。

 しかし、実はこの例文は共通の要素を一般化していない。共通要素の一般化というのは、厳密には「枚挙型」と呼ばれる種類の帰納の説明で、この例文は適用できない。この事例で共通の要素を一般化すると「処理応答が悪くなっている機能はすべて、案件テーブルのデータ更新をしているだろう」となる(図3)。

図3●帰納(厳密には枚挙型)による根拠付け
図3●帰納(厳密には枚挙型)による根拠付け
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