前回はロジカルシンキングの根拠付けの概念として「アブダクション」に触れた。今回はその点を踏まえた上で、ロジカルシンキングを代表する概念の1つ「MECE(Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive)」の活用のコツを解説する。筆者が考案した「合目的性」「分類再現性」という考え方を使う。
MECEは50年くらい前に、当時米マッキンゼー・アンド・カンパニー社に在籍したバーバラ・ミント氏によって考案された概念である。事象や課題をモレなく、ダブリなく分けるという考え方だ。ロジカルシンキングが広く普及するようになって大きく注目され、その概念は本質的で今でも通用するものだが、実践はなかなか難しい。
前回も触れたが、MECEの有用性はアブダクションからきている。つまり、納得感を高めるにはもっともらしい分類であることが重要だが、モレもダブリもないだけでは不十分だ。この不足する要件を埋める必要がある。前回同様、案件管理システムの事例を使って説明していこう。
A社はある企業の案件管理システムを開発して納入したが、数年後に顧客の情報システム部門からシステム変更要望への対応の見積もりを求められた。要望は、システムのユーザーである営業から、案件登録と案件クローズの機能の応答が悪くなったことへの対応と、現状はエクセルに入力している案件関連情報をアップロードする機能の追加が挙がっている。
また情報システム部門からは、セキュリティー強化のためにユーザー認証機能を新しくしたいという要望が挙がっている。
これに対してA社の技術陣は、案件登録と案件クローズの性能低下の原因は案件数が想定以上に増加したためで、このままでは他の機能にも支障が出るという見解を出している。そのため、案件テーブルの実装方法も含めた、案件検索機能の見直しを併せて提案すべきという意見だ。
要件を整理すると次のようになる。
[営業]
- 案件登録機能の性能改善
- 案件クローズ処理の性能改善
- 情報アップロード機能の追加
[情報システム部門]
- ユーザー認証方式の変更
[A社からの追加提案]
- 案件検索機能の見直し
この整理は要望の発生順に並べたものであり、全体感がわからない。これをシステムのアーキテクチャーに沿って、「案件管理機能」「業務支援機能」「共通機能」の3つに整理し直したものが図1だ。追加提案部分であることは赤字で示している。
この機能単位での整理は、A社の開発チームや顧客の情報システム部門にとっては、全体感のあるわかりやすいまとめ方である。モレもないしダブリもない。しかしこれではMECEとは言えない。システム関係者以外には伝わらないからだ。