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 Aさんは外資系企業の日本ブランチのITマネジャーのアウトソーサーとして経験豊富である。ワールドワイドではとても大きな企業なのだが、日本ブランチは数十人~百人以下くらいの規模で事業展開している会社を数社担当した経験があり、その分野では自信を持っていた。

 こうした規模の外資系企業はIT戦略や施策は本社のヘッドクオーターが策定し、日本ブランチのマネジャーはそれに従って仕事をする。基幹システムの不具合があった場合は本社とやり取りするが、時差があるし、基本的に英語でのやり取りとなる。また会社によってはパソコンも日本で購入するのではなく、申請すると本社が購入して、それが空輸されてくることも少なくない。英語力もさることながら、日本企業とは異なる文化での仕事なので、向き不向きや慣れが必要な仕事である。

 数年前のことだ。Aさんは担当していた契約が終わって、少し休みでも取ろうかと思っていたところに、外資系企業X社からAさんが所属する会社に「至急引き継ぎができるITマネジャー候補はいないか」と打診があった。X社は日本での知名度は高くないが、世界的には有名な企業で、Aさんもやってみたいと思い、休暇を取りやめて担当を受諾した。

 だが、初回の打ち合わせ訪問の数分で後悔したという。その打ち合わせの雰囲気が最悪だったのだ。X社の前任はMさん、まずこのMさんが初対面の社会人とは信じられないような不貞腐れた態度であった。Aさんとの挨拶もそこそこに「あなたに私の代わりが務まるのかな」と言い放つ。「私の代わりができるなら、よそに行けば1カ月で300万円もらえるよ」と追い打ち。同席したX社の役員はMさんの暴言には表情を変えずに「Mさんは来週までなので、引き継ぎは1週間以内でお願いしたい」とサラリと言う。

 外資企業の引き継ぎは短期間で行うことが多いので、時間的に短いとは思わなかったが、Mさんから引き継ぎをしなければならないのでAさんは暗い気持ちになったという。それでもプロの自負もあり、引き受けることにした。Mさんがいないところで役員から暴言に対して謝罪があったことで多少救われたそうだ。

 Mさんは引き継ぎに入ると1つのバインダーを指さして「引き継ぎ事項は全てこのファイルにあるから、読んでわからなければ質問しろ」とだけ言って、そっぽを向く。逆らっても面倒だとAさんは資料を読んで質問すると「こんなこともわからなくてシステムの仕事するんだ」とイヤミの連発で、さすがのAさんも「こんな引き継ぎがあるか」と爆発寸前に何度もなったという。

 引き継ぎを進めていくとMさんが作成した資料には不備が多く、また質問への回答があやふやであることから、Mさんが力不足でクビになったことが露呈する。「虚勢を張っているだけのかわいそうな人だ」と思うようになると気が楽になり、Mさんのイヤミも聞き流せるようになったという。またMさんもAさんの力量がわかると、暴言が少なくなっていったそうだ。

 さすがプロのAさんである。もし筆者ならばMさんと大ゲンカしていたことだろう。

永井 昭弘(ながい あきひろ)
イントリーグ代表取締役社長兼CEO、NPO法人全国異業種グループネットワークフォーラム(INF)副理事長
永井 昭弘(ながい あきひろ) 日本IBMの金融担当SEを経て、ベンチャー系ITコンサルのイントリーグに参画、96年社長に就任。多数のIT案件のコーディネーションおよびコンサルティング、RFP作成支援などを手掛ける。著書に「RFP&提案書完全マニュアル」「事例で学ぶRFP作成術 実践マニュアル」(共に日経BP社)がある。