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 前回は図1に示す分かりにくい図とその理由を説明した。今回はそれを分かりやすく改善するにはどう考えていけばよいかを解説する。

図1●解読しにくい図の例
図1●解読しにくい図の例
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 改善に当たって最も大切なことは、その図で何を伝えたいのかを明確にすることだ。何よりもそれを最初にすべきなのだが、この図は伝えたいことが明確に表現されているとは言えない。そこでこの資料で伝えたいことを踏まえた上で、仮説も立てながら分析的に読み解いていく。

 この資料の文脈は、あるビジネス課題解決のための進め方を提案するものである。上部には、「現行業務・現行システムの課題を分析し、根本原因に対する施策を打ち出すことで、ビジネスへの効果がより期待でき、なおかつ無駄なIT投資を防ぐことができます」というテキストがある。こうした一見もっともらしい記述には根拠が曖昧であることが多いので注意が必要である。

 この場合、根本原因に対する施策によって、「ビジネスへの効果」や「無駄なIT投資の防止」がなぜ達成できるのかわからない。その答えが図で表現されているのではないかという仮説を立てて、図を読み解きながら、作図上の問題点も合わせて指摘していく。

 まず、根本原因1および根本原因2の上に作られている2つのツリー構造で言いたいことが何かを考えてみる。この部分を見ると、課題を分析していくと根本的な原因にたどり着くと読める。これは前述のテキストの前半部分に対応する。もし、図に示されているように多数の課題が根本原因から生じており、根本原因の解消によってそれらの課題が一気に解決するというのであれば、大きなビジネス効果につながりそうだというのは理解できる。

 しかし一般的に考えると、課題の原因は1つとは限らないし、それが根本原因と呼べるものに集約されるかどうかはわからない。一般的に書くと図2のようになるはずだ。このような一般性のある内容を記載すると複雑になり、主張は明確ではなくなる。逆に、特殊ケースを書くと納得感がなくなる。図1のように1つの根本原因に集約できるのは特殊なケースで、これを根拠にビジネス効果が大きくなるとは言えない。

図2●課題と原因の関係
図2●課題と原因の関係
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 次に根本原因以下のフロー図状の部分を見てみよう。キーワードの並びから内容はおおよその見当がつく。しかし図の出来が悪いために、稚拙な印象を受ける。フロー図のようなダイアグラムで大切なのは、図形が表しているもの、矢印が表しているものを一貫させることである。

 この図では、課題と原因は起こっている事象を表し、それらの関係は因果関係である。施策は実施すべき事項であり根本原因はその根拠である。根本原因となる事象が施策を引き起こすわけではないので、因果関係ではない。

 つまり、同じ図形で表されている概念はバラバラで、それぞれの概念を結ぶ矢印は感覚的な時間順序を示すだけの稚拙なものだ。こうした図を書くと、しっかり分析していないという印象が相手に伝わるので、注意してほしい。

 図3に、作業手順の観点から図形と矢印を一貫させたフロー図を示す。判断による条件分岐は起こらないため、菱形の図形は使っていない。

図3●検討作業のフロー図
図3●検討作業のフロー図
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図は作らない方がよい

 もともと、「根本原因」「施策」「取捨選択」「ビジネスへの効果」のキーワードが並んでいるので、伝えたいのは「根本原因に対する施策を取捨選択してビジネスへの効果を得る」ことだと推測できる。テキストに含まれていないのは、取捨選択のところだけである。

 以上を踏まえ、この資料で提案したいことは以下の3点と仮定する。

  • (1)業務課題とシステム課題をそれぞれ検討し、複数の施策案から取捨選択する進め方にする。
  • (2)施策案の検討では、課題の原因を分析して根本原因に対して手を打つ施策の案を出す。
  • (3)施策選択の判断基準は、PDCAサイクルを循環させて大きなビジネス効果が出せることと、無駄なIT投資にならないことである。

 ビジネス効果や無駄なIT投資の防止の根拠はなかったので、それらを取捨選択のための基準に位置付けた。この理解に従って提案したい内容を記述した資料が図4である。PDCAサイクルの循環の効果は不明だったため、その記述は割愛した。

図4●メッセージを明確にした記述
図4●メッセージを明確にした記述
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 ここで改めて考えてみたい。図4で示した資料で、どの部分に図による補足が必要だろうか。図は分かりやすくするメリットがある一方、思うように伝わらず混乱させたり納得感を下げたり、稚拙な印象を与えたりするリスクがある。図1はこのリスクが顕在化してしまった例だ。

 メッセージが十分明確で、文章だけで伝わるのなら、図は不要である。身も蓋もない結論になって恐縮だが、この例の場合は、作らない方がよいというのが筆者のアドバイスである。

 とはいえ、内輪での議論のためなら図は不要でも、顧客に提示する場合や、社内の事業責任者や経営者に素早い判断を求めるような場合など、図が避けられないことも多い。このようなときにどんな図を書けばよいのかについて、次回説明する。

林 浩一(はやし こういち)
ピースミール・テクノロジー株式会社 代表取締役社長
林 浩一(はやし こういち) 富士ゼロックス、外資系データベースベンダーを経てウルシステムズに入社。自治体・大企業のシステム内製化とPMOに特化した関連会社(現職)を設立、代表に就任。技術者をコンサルタントとしてスキルアップする育成手法を開発、展開のためのサイト「MALTドキュメント研究所」を運営。