PR

プロジェクトの進捗は、「管理する」よりも「プロモートする」と捉えるべきだ。それには、関係者の理解や認知を高め、合意形成へのアクションを取りやすくする。合意形成に必要な情報や判断材料を、進捗報告書の書式にも反映しよう。

Before
進捗をプロモートする報告書って?

 プロジェクトマネジャー(PM)の田村玲奈は、悩んでいた。総務システム更改プロジェクトで使用する進捗報告書の書式について、「ブラ柳」こと柳川グループ長にダメ出しされたのだ。

 前任の吉瀬グループ長に比べて、柳川グループ長は、細かいことをうるさく言わないタイプのはずだった。もともとアジャイル型の方法論に慣れていて、「細かく決めたって、どうせその通りにはいかないよ」というのが口癖。柳の枝が風にぶらぶら揺れるように、環境や状況によって柔軟に態度を切り替えるので、ブラ柳というあだ名がついた。優柔不断というよりは、臨機応変という意味で、部下からはどちらかといえば好意的に受け取られている。

 プロジェクト計画の段階で玲奈が提出したWBS(Work Breakdown Structure)だって、ざっと眺めただけでOKを出してきたのだ。勘所さえ押さえられていれば、あとは任せる、と言って。

 ところが、これまで使い続けてきた進捗報告書の書式について、柳川グループ長はダメを出した。いきなり、玲奈にとって謎のようなことを言い出したのだ。

「進捗報告書は、何のために書くんだと思う?」

 というのが、柳川グループ長の最初の質問だった。当たり前のことを聞かれて、玲奈は面食らった。

「進捗状況を報告するため、ですよね?」

 玲奈の答えに、柳川は笑みを浮かべた。

「まあ、そうなんだけど、報告するのは何のため?」

「状況を共有するためじゃないでしょうか」

「じゃあ、共有して、どうするの?」

 玲奈は答えに詰まった。柳川グループ長の口から、謎の言葉が飛び出したのはそのときだった。

「僕は、『管理する』って言葉があんまり好きじゃなくてね。進捗をプロモートする、って言ったほうがいいんじゃないかと思ってるんだ」

 玲奈は、思わず問い返していた。

「プロモート?」

 柳川グループ長は、軽くうなずいた。

「うん。その観点で、進捗報告書の構成も、少し見直してみてくれないかな?」

 そんな経緯があって、玲奈は、見慣れた進捗報告書の書式をにらんでいた(図1)。

図1 進捗をプロモートするとは?
図1 進捗をプロモートするとは?
図は見直し前の進捗報告書。進捗を「プロモートする」にはどんな書式が必要なのだろうか
[画像のクリックで拡大表示]

 まず状況総括欄があって、次に、納品成果物の計数予実表、それから課題/質問/変更の発生/解決/残件数の表、最後に次週のイベントとトピックス。これで、何が不足しているというのだろう。プロモートって、どういう意味だろう。分からない。

 考えあぐねて、玲奈はWeb検索をかけてみた。

 「プロモート」には、事業を推進するとか、何かを増進させるとかいう意味があるようだ。あるいは、「興行」という意味も。

 進捗を興行する?何かしっくりしない。プロジェクトを推進する?こちらのほうが、漠然とだけれどイメージしやすい。

 「プロモーション」という単語も検索してみた。こちらはマーケティング用語で、商品や会社に対する消費者の認知や理解を高め、好感度や愛着、ロイヤルティーなどのプラスイメージにつなげていく活動、とある。

 玲奈は首をひねった。好感度や愛着?状況を認知するのは何のためか。マーケティングの見地からすれば、特定の商品やブランドを選んでもらうためだ。では、進捗報告書で自分たちは何を選んでもらおうとしているのか?

 柳川グループ長が、別のときに言っていた言葉を思い出して、玲奈の頭にかすかな光明が差した。

「どんな議事録を書きたい?どんな結論を目指している?」

 と、彼は言ったのだ。そしてつけ加えた。

「だったらまず、その結論に至るように、会議を設計するんだね」

 会議の設計、議事録の設計、プロジェクトの推進。それまで凍りついたように止まっていた玲奈の指が、ゆっくりとキーボードを探り始めた。