従来型の開発は過不足なくドキュメントを作成する。しかし、使われない成果物の作成は無駄な時間とコストにつながる。ユーザーと協力して集約・選択し、無駄を排除しよう。
システム開発の無駄取りは、開発工程や調達の工夫だけでなく、そもそも無駄な機能や画面、文書を作らないことが重要だ。いくらコストをかけて作成した成果物でも使われなければ意味が無い。九州電力や富士通、TISの事例から無駄な成果物を作らない方法を探ろう。
2000本の帳票を10分の1に
九州電力が取り組んだのが、経理システムの刷新である。富士通製のメインフレームからオープン系サーバーにリプレースし、COBOLで開発されていた帳票をSAP S/4HANA上で稼働するABAPプログラムに置き換えた。
プロジェクトで課題だったのは、2000本という帳票の多さだ。帳票は作れば作るほどコストがかさむ。プロジェクトマネジャーを務めた九州電力の石井俊光経理テクニカルソリューション統括本部情報通信本部プロジェクトグループ長は、「帳票の中には使われていないものや、利用頻度が極端に低いものがあった。作成して使われないということだけは避けたかった」と当時を振り返る。
そこで、石井グループ長は2つの施策を講じた。1つは、ユーザー部門をシステム開発の現場に同席させることだ。100人ほど収容できるオフィスを借り、ユーザー部門とシステム部門、システム子会社である九電ビジネスソリューションのエンジニアに入ってもらった。膝と膝を付き合わせた開発体制を敷き、ユーザー部門が本当に必要な帳票を素早く絞り込むことにした。
2つめは、作成する帳票のグループ化だ(図1)。帳票をグループ化して、巨大なマスター帳票を作成する。ユーザーにはマスター帳票の中からそのユーザーが使う部分だけを表示するという手法を採用した。これらの施策によって、作成する帳票を200本程度に減らした。
こうして2年に及ぶ大規模プロジェクトは、2019年4月末に無事にカットオーバーして終了した。システム開発コストは約100億円。石井グループ長は「作成する帳票を減らせたことでおよそ20%ぐらいのコスト削減につながっている」と話す。